博士課程の学生のメンタルヘルス調査結果を徹底解説【Nature/Advance HDの大規模調査結果】

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こんばんは。国内製薬企業勤務の酔っ払い化学者と申す。

あなたの知的好奇心をびしばし刺激する情報を発信してゆく!

好きなビールはマスターズドリーム・ブラウンマイスター!

本日のテーマは博士課程のメンタルヘルスだ!

博士課程のみんな、元気か?元気であることを願っている!

博士は貴重な存在だ。国の未来そのものだと言っても過言ではない。だが、私も数年前は1人の大学院生だったから知っている。大学院ってちょっと特殊な環境だよね。まぁなんというか、簡単に言うと、世間から隔離されてるよね。しかも激務だし、給料ないし、学生だとカーストの最下層だし、研究も不確実性が高くてうまくいくかわかんないし…

どや顔マン
どや顔マン

まぁ、病むよね!

という訳で、国の未来が心配だ。ちゃんと飯食ってんのか?

国際機関も同様の心配をしている様だ。

NatureやAdvance HE (英国に拠点をおく高等教育管理トレーニング組織)は大規模な博士課程の学生のメンタルヘルス調査を実施しており、2019年にそれぞれ結果が報告された。

今回の記事ではこれらの調査結果を纏めていく。

まずはざっくり結論から。複数の調査により

大半の学生は博士課程における研究に満足しているが、一方で長い拘束時間、研究資金の問題、いじめやハラスメント、研究テーマの不確実性に不安を抱いていることが解った。

さて、より詳細に以下の順番で説明していく!

目次
  1. PhDの心の声【研究には満足しているけど、不安も大きい】
  2. PhDの不安の原因要素【拘束時間、お金、いじめ、不確実性など…】
  3. 中国のPhDに特化した解析結果【急速に発展する中国の現状】
  4. 科学者パライの思い出話【うつになった友達、人生を再定義する話】
  5. メッセージ

この記事を書きながら、私がかつて(と言っても数年前だが)学生だった頃、鬱になって潰れた友人を思い出した。私の研究室はブラックで、毎年1~2名が潰れていた。そんな特殊な環境から解放された今、とても考える事がある。

本記事では調査データをしっかりと解説した後に、私の個人的なややエモい思い出話を語りたいと思っている。

さて、行くぞ!

PhDの心の声【研究生活には満足しているけど、不安も大きい】

今回は2つの調査結果を基に解説していく。

1つ目はNature PhD Carrer Surveyの調査結果だ。Natureチームは2011年から2年ごとに博士課程に在籍する学生のキャリア・メンタルヘルスに関する調査を実施している。それが Nature PhD Carrer Surveyだ!今回、2019年の最新解析結果が報告された。過去最大の6300名の世界各国のPhDに対する調査結果が得られた。

世界各国のPhDに対して任意回答という形でアンケートを行った。

得られた回答の内訳は以下の通り。

北・中央アメリカ:27%、ヨーロッパ:36%、アジア:28%(うち、中国:40%、インド:29%、日本:5%、韓国:5%)。なんか日本人少ないね… アンケートが日本語でなかったのが原因かなぁ。

NATURE PhD SURVEY 2019より引用

***

私見だが、重度の無気力状態にある学生は恐らく無回答なのではないか?帰還しなかった戦闘機にこそ真の弱点が隠されている。回答を書く気力のある学生のデータを基にした解析結果はバイアスがあるのではないか?などと思うが、まぁしょうがない。

***

2つ目はAdvance HE (英国に拠点をおく高等教育管理トレーニング組織)の調査結果だ。こちらはNatureの6000名に対し50000名だ。スゲー多い!!!

この2つの調査の結果は概ね一致していた。

すなわち、7~8割の学生が博士課程へ進学したこと及び研究生活に満足している。一方で、長い拘束時間、研究資金の問題、いじめやハラスメント、研究テーマの不確実性に対して大きな不安を抱いている。

この不安はなかなか深刻なようだ。

Natureの調査では36%のPhDが研究によって引き起こされる不安やうつ病に対して支援を求めていることが解った。

2年前の調査では、大学側に「ストレスがヤバいときに泣く為の部屋をよこせ!」と主張した学生もいたそうで、なかなか切実だ。

Advance HE の調査結果では、不安を感じないと答えたPhDはわずか14%だけだった。PhDに限らず不安感じゃない人は少ないだろ!と思ったが、一般人に同様の質問をすると41%が不安はないと答えたらしい。やっぱりPhDは凄い不安なのだ。

更にAdvance HEの調査結果は、一般人(英国人)とPhDをいくつかの切り口で比較しており面白い。

  • 価値のある生活: PhD:35%、英国人:36%。
  • 生活満足度: PhD;23%、英国人:31%
  • 幸福度:PhD:23%、英国人:35%

PhDは人並みに生活に価値を感じてはいるが、満足度と幸福度は一般人よりも低いようだ。

さて、じゃあなんでそんなに不安なの?っていう原因を次は見ていく。

PhD学生は頷きすぎて首が取れないように注意だ!

PhDの不安の原因要素【拘束時間、お金、いじめ、不確実性など…】

Nature/Advance HE各々の報告で挙げられているPhDの不安要素を箇条書きにすると

  1. 長すぎる拘束時間
  2. いじめ/差別/ハラスメント
  3. お金の不安
  4. 研究の不確実性・評価制度の問題
  5. ワークライフバランスの崩壊

こんな感じの事柄にPhDは苦しんでいる。

順番に説明していく。特に断りがない場合はNatureの調査結果である。

長すぎる拘束時間

  • 27%の学生が、研究に週41~50時間を費やし、25%は週51~60時間費やしている。
  • 50%弱の学生が、所属大学には長時間労働の文化があると回答した。

下記がNatureの調査結果のまとめ。因みに私は修士の頃は週80時間くらいいってたなぁ(遠い目)

NATURE PhD SURVEY 2019より引用

いじめ/差別/ハラスメント

  • 21%の学生が、いじめを受けた経験がある。その主な相手は指導教官や他の学生、スタッフ。
  • 21%の学生が、博士課程において差別やハラスメントを受けたことがある。

ハラスメント関しては男女差/地域による差があるようだ。嫌がらせを受けた男性の割合は16%だったのに対し、女性の場合25%程度にも上る。

また、嫌がらせや差別は北米で最も多く(24%)オーストラリアで最も低かった(18%)

また、いじめを経験した学生は自身の状況をカミングアウトする事が難しい。いじめを受けた学生の57%は、自分の状況について話すことが難しいと感じている。

お金の問題

約20%の学生が、博士課程での研究の他に仕事を持っている。その主な理由は生計を立てるため(53%)

このお金の心配は、地域差があり、特にアフリカの学生に多い。アフリカの学生は資金調達の困難さと卒業後の経済的不安に圧迫されている。

アフリカの学生の半数以上が、学生の負債を上位5つの懸念の1つとして挙げている。

債務に関する懸念は、ヨーロッパでは低く(21%)アジア(31%)と北米および中米(29%)で中程度だった。

研究の不確実性・評価制度の問題

仕事の見通しに対する不確実性は常にトップに君臨する不安要素の様だ。

過去の2017年におけるNatureの調査においても研究の不確実性はトップの不安要素だった。

研究が成功するかどうかなんて解らない。科学研究は不確実性が高いのだ。 PhDの僅か26%だけが、自分のテーマが「非常にうまく」と答えた。

一方で、PhDの評価制度は目下の成果を求める。ここが課題なのだ。

すなわち、PhDのキャリアは論文数、投稿先の雑誌のインパクトファクターなどの指標で評価されるが、基礎研究はすぐに花開く研究ばかりではない。長く暗いトンネルの先に花開く研究もある。純粋な科学への探求心、自然への畏敬や知りたいという透明な気持ち、それらはしばしば「それって役に立つの?」という質問の前に砕け散る。

すぐに結果を出さなければ研究を続けられない。この危機感が視野を狭くし、自由なのびのびとした研究を殺す。

憧れたPhDになって数年後、蓋を開ければ、純粋な探求心は忘れられ、資金調達、分かり易いプレゼン、コネクション作り、役に立つ研究などなど霞んでしまった自分を見出し、ふとした瞬間に思う。

「あれ、なにやってんの?」

ワークライフバランスの崩壊

ワークライフバランスの崩壊も仕事の不確実性と並んで常にトップに君臨する不安要素だ。

先に述べた長い拘束時間にも関係するワークライフバランス、全体として40%がワークライフバランスに不満を抱いている。特にヨーロッパではその傾向が強かった。

10%弱のPhDには12歳未満の子供がおり、家庭持ちの研究者のワークライフバランスの崩壊に緊急の課題である。多様な社会を目指すのであれば、例えば大学施設内に保育園の設置や、急な発熱に伴う休暇に対応できるようなサポート(専任化の回避)など、様々な対応が必要だろう。

小括!

という訳でNatureとAdvance HEの調査結果により以下がわかった。

7~8割のPhDが博士課程へ進学したこと及び研究生活にも満足している一方で、

  • 長すぎる拘束時間
  • いじめ/差別/ハラスメント
  • お金の不安
  • 研究の不確実性・評価制度の問題
  • ワークライフバランスの崩壊

は研究者にストレスを与え、 Natureの調査では36%のPhDが研究によって引き起こされる不安やうつ病に苦しんでいる。

中国のPhDに特化した解析結果【急速に発展する中国の現状】

さて、 Natrueの調査結果は3回にわけて掲載されている。

  • 1回目は、調査結果の概要を紹介し
  • 2回目は、博士課程に在籍する学生の指導を取り上げ
  • 3回目は、中国における博士課程での研究教育について考察している

今回紹介したのは1回目の内容だ。

3回目、なんで中国に特化してんの?と思うが、恐らく近年の中国の科学技術力の発展力が凄まじい為にNature編集者も気になっちゃってるのだろう。

中国の科学技術力の発展に関しては前回の記事で徹底解説したので参考にして頂きたい!

簡単にこの記事の内容を纏めると

  • 中国は研究にめっちゃ金かけてて
  • 既に主要分野の特許数は世界トップレベルで
  • 製薬業界の市場規模は増えてて
  • 政府の規制緩和によって薬作りしやすい環境が整いつつ合って
  • メガファーマも中国市場にどんどん参入してて
  • 中国初の創薬ベンチャーも増えてきているよ!

ということだ。一言でいえば、中国の科学技術力が凄い!という事だ。

さて、そんなに勢いのある中国。PhDの学生さんは幸せなの?

結果を箇条書きにしよう。Natureの調査結果によると中国のPhDは世界のPhDと比較して

  • 博士課程の経験への満足度は低い(中国:55%、世界:72%)
  • うつ病がわずかに多い(中国:40%、世界:36%)
  • いじめは少ない(中国:15%、世界:22%)
  • 差別も少ない(中国:12%、世界:22%)
  • 労働時間は短い(40h/week以上、中国:53%、世界:79%)
  • だがワークライフバランスへの不満は多い(中国:45%、世界:38%)

なかなか味わい深い結果になっている様だ。いじめ、差別、長期労働が少ないのは恵まれているのだろうだが、満足度は低く、うつが多く、不満も多い。中国特有のうつや不満につながる要素があるのだろうか?

ちなみに、中国の博士課程は増えているそうだ。

2009年:62000人未満、2013年:70000人未満、2018年:95502人

以上、近年めちゃくちゃ発展している中国だが、研究者たちが他の国と比べて特別幸福!というわけではなさそうだ。国の方針が強いのだろう。

科学者パライの思い出話【うつになった友達、人生を再定義する話】

さて、ファクトベースのデータ解説はここまでだ。ここからはややエモーショナルな個人的な思い出話になる。ここからの記載内容の目的としては、とにかくこの記事に辿り着いてくれた君、元気出せよ!ってことだ。

科学者パライ:絶望の修士時代

私も数年前は大学院生だった。特定が嫌なのでぼかすが、色々あって修士卒で就職した。博士はとっていない。 色々なければ博士へ進んでいたかもだが、今は就職してよかったと感じている。というのも私の大学での研究分野は結構ニッチで、企業に就職して一気に視野が広がったからだ。

さて、修士の2年間だが、今から考えればあり得ない生活だった。常に寝不足で、元気がなく、いらいらしていた。それでも研究にやりがいは感じており、毎日9時~深夜1時くらいまで実験して、土日もほぼ研究室にいた。

私はうつにはならなかったが、毎年1~2名は研究室に来なくなったり問題を起こしたりしてドロップアウトしていった。どの学年も研究室に入るときは同期が3~5名いてたが、卒業する頃には2~3名になっていた。

修士1年の頃、私の同期がひとり心をやられた。真面目で不器用で猫背で陰気で、常に右半身が電信柱の陰に隠れているような男だったが、唯一の同性の同期だったので、たまにご飯に行って「実家が愛媛なんだよね」とか「昔、ボーイスカウトだったんだよね」とか、よくわからない情報交換をした。

そんな彼が、ある日突然「ロックに目覚めたんだよね…へへ…」とか言って斎藤和義の「ずっと好きだったんだぜ」を大音量で流しながら実験をし出した。これはヤバい!と思ったが、まだきゃあきゃあ笑っていた。だが、彼がフラスコをぽいぽい割り出したときは全然笑えなかった。

教授に頼まれて、研究室に来なくなった彼のアパートに一人行ったことがある。暗いアパートだなぁ、こころが寒いなぁ、などと思いながらチャイムを押して、部屋にあがって少し雑談をした。「実家が愛媛なんだよね」「…へー。ミカン好き?」みたいな会話をしながらだらだら時間を過ごした。

「研究室、来ないの?」と聞いてみると、下を向いて答えなかった。

こころが寒いなぁと思いながら研究室に帰った。あの帰り道は寒かった。冬だったし。

人生を恐怖ではなく希望で考える

そんな感じで毎年1~2名が消えていった。空いたデスクを眺めながら、ヒトはどういった時に壊れるのだろう?などとぼんやり考えていた。恐怖か、将来への不安か、金の問題か、自分が何者でもないという感覚か。

世の中には色んな怖いものがある。これを際限なくリストアップしていくと、恐怖で全身が満たされる感覚がする。足がすくむ。どうやら世の中には問題が溢れている様だ。私は順調だったが、この先ふとした判断が命取りになるのかもしれない、などと考えた。

だが、やがて年を重ねる毎に私も成長し、いつした全く発想を反転させたほうが良いだろうという事に気が付いた。

すなわち、ヒトはどういう時に壊れるか?を予測し予防線を張るよりも、ヒトはどういった時に活き活きとするか?を考え、自分をアゲアゲな状態に持って行ったほうが生産的だし、成功確率も高いだろう、と思ったのだ。

私はとにかく沢山本を読むのだが、その中でひとつ到達した真理として、恐らく人には【誇り】が大事なのだろう。言い換えれば【私には価値がある】という感覚だ。これがあれば最高にアゲアゲでいることができる。

では【私には価値がある】という感覚はどうやったら得られるのか?手っ取り早いのは他人に認めてもらう事だ。だが、それはいつか限界がくる。他人はコントロールできないからだ。自分の中で完結させた方が最強だろう。

自分自身で価値を定義する

ヴィクトール・E・フランクル著の「夜と霧」という本がある。この本は、【私には価値がある】を自分だけで完結できる手法を提示している。絶望に沈む博士課程の生徒は一度手に取って読んでみると良いかもしれない。

簡単に内容を言うと、アウシュヴィッツ強制収容所に収容された心理学者が、そこで見た想像を絶する絶望の中から、唯一の希望を見出すという体験記だ。

アウシュヴィッツの被収容者は想像を絶する暴力と、人間の愚かさを目の当たりにする。 看守の気まぐれで命を奪われる。 仲間だと思っていた被収容者同士で裏切りが起こる。何も自分でコントロールできず、まるで実験がうまくいかないPhDの様にただ無力に運命に翻弄される。

「一体、この苦痛、恐怖、そして人生に意味があるのだろうか…?」と著者は考える。

この問いは悪魔の問いだ。なぜなら、アウシュヴィッツでの人生には何の意味もなかったからだ。この問いの前に多くの被収容者は絶望し、人間性を失い、精神的に堕落していった。

被収容者の多くは、生きる為ならなんだってした。一欠けらのパンを盗み、友人を密告した。なんだってありだった。

だが、そんな絶望の中でも、周囲の人に思いやりの言葉をかけ、ユーモアを忘れず、毅然とした態度をとり、精神的に高みに達した人がいる事に著者は気が付いた。

「一体、こうした人たちはどうなっているんだ?」著者は考え、やがて答えに到達した。

この人たちは【判断している】と著者は気が付いた。

著者はその考えをこのように表現している。

わたしたちは、恐らくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。この人間とは何者か。人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りの言葉を口にする存在でもあるのだ

夜と霧: ヴィクトール・E・フランクル著

つまりこういうことだ。アウシュヴィッツは被収容者から全てを奪うことができた。過去の栄光も、愛する者も、命ですら。その様な不条理の前であっても、わたしがその絶望の前でどの様な態度をとるか、この最後の自由だけは奪えない、ということだ。

著者は更に思考を深め、次の様に述べている。これは私の人生哲学の根幹をなす。

わたしたちは生きる事から何を期待するかではなく、むしろひたすら、生きる事がわたしたちから何を期待しているかが問題なのだ。

夜と霧: ヴィクトール・E・フランクル著

人生はしんどいし不条理だ。一生懸命やった実験がうまくいかない、いつまでだっても業績はいまいちで、教授は怖いし、しんどいばかりや。

そんな時私たちはこう思う「あ~こんな研究、意味あんのかよ~」

そうではなくこう問うべきだ「あ~どうやったらこの絶望に意味を持たせられるのかな~」

判断基準:より大きな集団の声を聴く

ヒトは判断できることは分かった。だが、一体何を基準に判断すればよい?明確な基準がなければ判断しても間違うよねって話になる。

これは凄まじく長い話になるので、簡潔に述べていくが、判断基準は【倫理】に照らし合わせて判断するのが良いだろう。

じゃあ【倫理】ってなんやねん、って話になる。

ずばり、倫理とは【みんなの幸せの総和を最大化する為の決まり事】だ。

例えば、あなたが缶カラを持っている。ゴミ箱がない、ぐへへ、ポイ捨てしてしまえ~!

これは倫理的ではない。あなたはちょっと楽して幸せになるかもしれないが、路上にゴミが増えれば衛生的に良くなくて、みんなが不幸になる。つまり、幸せの総和が減るので倫理的ではない。

倫理の最終目的は、種の存続だ(*1)。みんなが生き残る事だ。みんなが幸せになるという事はサピエンスが集団として生き残るという事だ。このみんなをどこまで広げて定義できるかは人によって異なる。だが、この範囲が狭まるほど真の倫理からは遠ざかる。小さい集団が危険なのは、みんなの定義が極めて小さいからだ。

(*1)ここでは割愛するが、このロジックを深めたければ、 「サピエンス全史(上)の虚構革命」「やわらかな遺伝子」 を読む事をお勧めする。

小さい集団は独自に倫理を規定し、小さい集団内の幸せの総和があたかも全集団の幸せの様にメンバーに錯覚させる。カルト団体がテロる。なんであんなことするの~?と思えるのは、あなたがより大きな集団の声を知っているからだろう。

ベストセラーとなったアドラーの「嫌われる勇気」。私はぽろぽろ泣きながら何度も読んだのだが、あの本が語っているのはこの倫理の話だ。アドラーは次の様に表現している。

「より大きな共同体の声を聴け」

これは倫理の本質だ。

ブラック研究室、学校でのいじめ、ハラスメント…みな独自の倫理を語る。だが、それらが真に倫理的か否かは、より大きな集団の声と照らし合わせて判断したほうが良い。一部の閉ざされた集団の幸せのために、あなたが犠牲になることは倫理的ではない。

成功事例:奇跡の職場(新幹線清掃チームの”働く誇り”)

だらだらと語ってきた。纏めるとこんな感じだ。

人生うまくいかないことが多いけど…

  • 私は価値があると思えたら良い感じになるかも!
  • ほんで、私は価値があると思う為には、状況に関わらず【良い判断】をすればいいのかも!
  • 良い判断ってのは倫理に照らし合わせて下せばいいのかも!
  • 倫理ってのはより大きなみんなの幸せの総和を考えたらいいのかも!

なんかすごい理想論…こんなん上手くいくのかよ?と思うでしょう。私も思うぞ!

だが、世の中にはしばしば素晴らしいストーリーが転がっている。成功事例を紹介しよう。

「奇跡の職場」という本がある。

私はぽろぽろ泣きながら何度も読んだ本だ。

簡単にあらすじを紹介すると、新幹線の清掃という仕事はしんどいし地味だ。3K「きつい・きたない・きけん」などと言われている。当然、清掃スタッフもやる気がない。掃除のおばちゃんにどんな希望がある?だが、そこに矢部さんというリーダーが現れた。そして、仕事の定義を変えた。

「新幹線の清掃員は、日本が世界に誇る緻密なダイヤに従って運航する新幹線を根底から支えるプロ集団だ!」

言葉遊びに聞こえるかもしれない。だが、このメッセージは徐々に掃除のおばちゃんたちに浸透し、働く誇りを抱かせた。やがて清掃員たちは、お客さんの喜びの為にというより大きな声を聴き、自ら職場を変革していく。「7分間の奇跡」として呼ばれる、僅かな停車時間で車内をぴかぴかに仕上げる彼らの働きぶりに心打たれる人が続出し、観光客まで現れる。世界がこの「新幹線劇場」に注目し、メディアに取り上げられ、ハーバードビジネススクールの必須講座に採用される。

この心打たれるストーリーはなんだろう。確かにきっかけは矢部さんという強力なリーダーだったかもしれない。だが、結局自らを変革したのは清掃員ひとりひとりなのだ。暑苦しいリーダーなど疎ましい。従来通りだらっとやっとけば楽だ。だが、彼ら/彼女らは勇気をもって、リーダーの声に耳を傾け、仕事の定義を変え、更によりお客さんの幸せという倫理に声を傾け、変わった。

今まで身内に自分の仕事を隠していたスタッフが胸を張って「私は掃除のおばちゃんよ!」と息子に自慢するようになった。

ここには人間の内から輝く美しさがある。きっかけは何でもよい。適切な判断基準をもって自らに判断を下したとき、ヒトは内から輝くのだろう。

有名なこんな逸話もある。これも良い話だ。 

NASAでケネディ大統領が清掃員を見かけ、ふと声をかけた。

「なにやってんの?」

すると、清掃員は言った。

「大統領閣下、私は人類を月に送るお手伝いをしているのです」

ちなみに「奇跡の職場」を実現する為に、テッセイという企業には鉄の規律だったり、厳しい制度もある。だが、多くはきちんと従うのだ。なぜなら、それを順守する事が、お客さんの幸せというより大きな目的に繋がることを、一人一人が認識しているからだ。

メッセージ

さて、メッセージだ。是非考えてみて欲しい。

あなたの仕事はなんですか?

科学者パライ
科学者パライ

ファイト!!!

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