中国でアルツハイマー病の新薬承認:腸内細菌を改善するユニークな作用機序を解説!

論文紹介

参考記事:Green Valley Announces NMPA Approval Of Oligomannate For Mild To Moderate Alzheimer’s Disease

中国でアルツハイマー病の新薬:Oligomannateが承認された(2019年11月)

中国の製薬企業Green Valleyが行ったフェーズIII試験でOligomannateが軽度から中程度のAD患者の認知機能を改善した。
Oligomannateは忍容性も極めて高く安全とのこと。

Green Valleyはまもなく中国でOligomannateを発売する予定。
AD治療の新薬が出るのは17年振り。

この薬剤は腸内細菌の代謝異常を修正するという非常にユニークな作用機序で効果を発揮する。

この記事では【臨床試験の結果】【作用機序】を説明していく。

臨床試験の結果

試験デザイン

  • 試験:複数の施設で、 二重盲検法(*1) を用いた ランダム化比較実験。
  • 対象:818名の軽度から中程度のAD患者
  • 期間:36週間、薬剤もしくはプラセボの投与を受けた
  • 効果の指標:認知機能の指標であるADAS-Cog12 score(*2)

(*1)医師も患者も、投薬している/されているものが薬剤かプラセボか知らない状態で試験をする方法。試験の公平性を高める事が目的。
(*2)認知機能を評価するのに用いられる一般的な指標。言語能力や口頭命令に従う行動評価など、複数の項目によって評価される。得点の範囲は0~70点。点数が低いほうが正常。

結果

Oligomannateは認知機能の改善を4週目より改善し、この効果は9カ月間持続した。
Oligomannateとプラセボの平均差は2.54 (p <0.0001)と統計的に優位な効果が示された。
Oligomannateは安全であり、プラセボに匹敵する副作用で極めて忍容性が高い事が解った。

図はPharmewsのツイートより引用: https://twitter.com/Pharmews/status/1190620937340645376?s=20

以上の結果を受けて、Green Valleyはまもなく中国でOligomannateを発売し、中国の発売に続いて特定の国で販売承認申請を行う予定。
また、世界で販売を行うために、2020年初頭に米国、ヨーロッパ、およびアジアに拠点をおこう多施設グローバル第III層試験(GREEN MEMORY)を開始予定とのこと。

作用機序

作用機序に関してはこちらの論文を参考にした。
Sodium oligomannate therapeutically remodels gut microbiota and suppresses gut bacterial amino acids-shaped neuroinflammation to inhibit Alzheimer’s disease progression

基礎研究から示唆されるOligomannateの作用機序をざっくり言うと

  • 腸内細菌のアミノ酸の代謝異常を調節することで
  • 末梢及び中枢における炎症を抑制
  • 中枢におけるアミロイドタンパクの沈着およびタウの過剰リン酸化を抑制
  • 認知機能を改善する事が示唆されている。

ADマウス/AD患者においてアミノ酸の代謝異常が起きている

ADモデルマウスを用いた研究で、AD進行中に腸内細菌の組成が変化する事、フェニルアラニンとイソロイシンが末梢に蓄積すると、炎症性ヘルパーT細胞(Th1)の分化と増殖が促進されることが解っていた。

さらに、末梢のTh1細胞は一部脳に浸潤し、炎症性ミクログリア(M1)の活性化に寄与する事が解っていた。

極めて重要な事に、マウスで見られたこうした現象はヒトのAD患者でも見られていた

すなわち、軽度認知障害患者でもフェニルアラニン及びイソロイシンの濃度が上昇しており、末梢のTh1細胞の増殖が観察されていた。

Oligomannateは腸内細菌の組成を変え、炎症を抑制する

Tgマウスを用いた研究で、Oligomannateは腸内細菌の組成を変化させた

また、腸内細菌の変化に伴い、Tgマウスの脳内でTh1細胞および活性型ミクログリアが減少した。並行して、Aβプラーク沈着、タウのリン酸化も減少し、識別学習能力の低下も抑制された

この変化が腸内細菌の組成の変化によって生じるかどうかを確認する為にOligomannateで処置したTgマウスの糞便を、凝集アミロイドβを脳内に注射したマウスに移植したところ(*3)、移植されたマウスで脳内のTh1細胞が減少した。

なお、抗生物質で処置されたマウス(*4)に対してはOligomannateは有効性を示さなかった。

以上の結果からOligomannateは腸内細菌へ影響し、末梢及び中枢における抗炎症作用を通し、認知機能を改善させることが示唆された。

(*3)糞便中に含まれる腸内細菌を移植する目的で実施している。

(*4)抗生物質によって腸内細菌が攪乱される。腸内細菌が強く攪乱されているので薬剤が効果を示さなかったのだろうと考察できる。

Oligomannateはアミノ酸の代謝異常を修正し、炎症を抑制する

Oligomannateがどの様に腸内細菌へ影響するかを調べるために、Tgマウスの糞便メタボロミクス解析を行った。

Oligomannate処置のTgマウス/未処置のTgマウス群/正常マウスから合計11289の代謝物が同定され、そのうち124の代謝物が 未処置のTgマウス群/正常マウス間で大幅に変化していた。更にOligomannate処置のTgマウスも加えて解析を行い、結果として3つの群で異なって調整される合計31の代謝物を得た。

同定された代謝物はアミノ酸関連、特にフェニルアラニンの代謝経路に関連するものだった。

上記の結果より、Oligomannateの作用機序としてアミノ酸の代謝経路への影響に着目した。

Tgマウスでは正常マウスに比べて、血中のフェニルアラニン、イソロイシンの濃度が向上している。これらのアミノ酸の血中濃度の上昇は病態の進行と相関していた。

Oligomannateの処置によって、Tgマウスの血中および糞便中のフェニルアラニンおよびイソロイシンが正常マウスと同等のレベルまで減少した。

Oligomannate処置群の糞便を移植されたマウスでも同様の結果が得られました。

以上より、Oligomannateは腸内細菌へ影響し、アミノ酸代謝、特にフェニルアラニンとイソロイシンの量を減らすことで認知機能を改善していることが示唆された。

フェニルアラニン/イソロイシンはTh1細胞の分化/増殖を促進する

アミノ酸は特定のトランスポーターを介して免疫細胞に取り込まれ、免疫細胞の分化と増殖を促進する。

Th1細胞にはフェニルアラニンとイソロイシンを取り込む輸送体Slc7a5が発現しており、分化前のT細胞(ナイーブCD4+T細胞)に対して、フェニルアラニンまたはイソロイシンのいずれかを4日間曝露させると、いずれの場合もTh1細胞への分化が著しく強化されました。

また正常マウスの腹腔内にフェニルアラニンとイソロイシンを投与すると血中のTh1細胞が増加した。

以上より、フェニルアラニンとイソロイシンは免疫細胞に影響し、Th1細胞への分化を促進する可能性が示唆された。

以上、まとめると
  • AD患者およびADマウスではアミノ酸の代謝異常がおきている
  • 代謝異常は末梢および中枢で炎症性細胞を増やし、認知機能低下につながる可能性がある
  • Oligomannateは腸内細菌へ影響し、アミノ酸の代謝異常を修復し、炎症を抑制し、認知機能を改善させる可能性がある。
  • Oligomannateは第III層試験で認知機能を4週時点から改善した。

Oligomannateが腸内細菌の組成を変える事は確かな様ですが、具体的にどの細菌を増やして(もしくは減らして)いるのかは不明の様子。より詳細なメカニズム解明によって、更なる応用が出来るのかもなぁと思ったりする。

因みに、フェニルアラニンとイソロイシンを取り込むトランスポーターの阻害でも同じような効果、つまりTh1細胞への分化を抑制し、炎症が抑制され、認知機能が改善されるのかな?等々非常に色々可能性が広がる研究結果だなぁと思った。

今後のグローバル試験の動向が気になるところ。

GreenValleyについて

Green Valleyは中国の製薬企業。1997年に設立され、本社は上海市の張江市。神経疾患、がん、心血管疾患、代謝性疾患、自己免疫疾患の研究プログラムを進めている。中国に1500名の従業員がおり、米国で子会社を運営しているとのこと。

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