たまの研究哲学:加速する時代に【亀という生き方】をおススメする理由。

エッセイ

こんちわ。科学者パライです。Twitterでは酔っ払い化学者と名乗っているよ。

ここ最近、嬉しい事にTwitterで学生さんのフォロワーが増えております。DMで色々悩み相談とか質問とか頂いてて、みんな悩んで頑張っとる!おじさん胸が熱いよ!となりました。

という訳で、いつもは科学情報をしつこく発信している本ブログですが、たまには趣向を変えて個人的な研究哲学というか、なんだかもこもこした記事を書いていくよ。

研究頑張ってる皆さんに何か新しい気づきがあれば良いな~というゆるい感じで書いております。

科学者パライ
科学者パライ

全て私の勝手な意見なので採用するか否かはお任せ~。ゆるい感じで行くぜ~。

本記事の構成

まずは言葉の定義など下準備をした後に、私がおススメする研究スタイル【亀さんスタイル】の魅力を説明する。更に【亀さんスタイル】の日常を具体的に紹介していく。

1:最初の下準備:言葉の定義とか

これから「こうしたら上手くいくかもね」という個人的なアドバイスをしていく訳だが、最初に【上手くいくとは何か】をしっかり定義しておこう。

「上手くいく」と言うと、短期間で成果バリバリ!論文だしまくりで、彼氏/彼女も出来ました!みたいなのをイメージする人もいるかもしれないし、結果は全然出ないけど、なんか心の平和が訪れました、あと彼氏/彼女も出来ました!みたいなのをイメージする人もいるかもしれない。

要は、人によって定義がバラバラだ。成果のイメージを先に統一する事で誤解をなくしたい。

という訳でこの記事での「上手くいく」を定義する。

この記事で「上手くいく」とは、ずばり童話「ウサギと亀」の【亀さんの様に勝つ】事を指す。

つまり、長期的に勝つことを目標とする。

アミロイドβ部長
先輩

因みにこの記事読んでも彼氏/彼女は出来ないぞ!

2:長期的に勝つ【亀さんスタイル】をおススメする理由

なんでやねん!?学生の時間は限られているし短期で成功したいわ!と思うかもしれない。無理もない。

最近は、スマホであらゆる情報が入るので大変だ。往々にして目立つのは「1カ月で億万長者になりました!」とか「3日でフォロワーが1万人突破しました!」とか、手元のスマホが他人の短期間での成功を次々とお知らせしてくれる。成功している人の声は大きく拡張され、なんだかみんなが成功者で、私だけが取り残されている心地がする。耐えられない。現代は嫉妬の時代だ。

そんな中で研究者という生き方はきっと辛いだろう。特にまだ科学の道に入り立ての学生さん達は。成果は不確実性が高く努力は実るとも限らない。実験は連日失敗、いくら論文読んでも知識がすぐに役立つとは限らない、おまけに彼氏/彼女も出来ない…あー俺もFXでボロ儲けしてフェラーリで都市高をぶっぱなしたいよ!短期的に成功したいよ!となる気持ちも非常にわかる。

その鬱々とした気持ちを理解した上で、やはり私は長期的に勝つ【亀さんスタイル】をおススメしたい。

理由は非常に簡単だ。

  • そもそも科学そのものが持つ不確実性の為に短期的に勝つことは不可能だ。
  • 従って長期的に勝つ以外の選択肢は無い。科学の世界に魔法は存在しない。
  • 長期的に勝つためには【亀さんスタイル】が至上だ。

不確実性と亀さん

そもそも科学研究とは【世の中の誰も到達していない領域への旅】だ。なので、過去の知見と推論という微かな光はあるものの、到達しようとする領域は漆黒の闇だ。

普通に考えて、短期間で上手くいく訳がない。上手くいくなら誰かが既にやっている。重要な事だからもう一度言っておこう。【簡単に出来るなら誰かが既にやっている!】。

我々の先を走っている科学者たちが何人もいる。彼らが到達できなかった闇のその先へ、彼らが残した微かな光を頼りに行くのだ。簡単に上手くいかないから価値があるのだ。

失敗の山はそれだけその闇が深く、その中に超ドキドキサプライズ系のお宝が眠っている事を示唆する。失敗するほど燃えろよ。何が言いたいかと言うと失敗に一喜一憂するようでは未熟だ。失敗の山の前で萌え上がる。これが本物の科学者だ。本物の科学者はドMだ。(異論は認める)

アミロイドβ部長
マゾヒスト

本物の科学者はドMだ!!!

という訳で、科学は学問の不確実性の為に短期的に勝つことは不可能だ。

すぐに結果が欲しいという発想は捨てるべきだろう。というか、短期的な成功などいらん。ワイは誰も到達していない領域へと長い時間をかけていくんや、くらいの心持が良いだろう。

短期的な気持ちで、目先の結果に心動かされてばかりいると結局こころが疲れてしまう。長い目で、のんびりと、しかし確実に進んでいく亀さんスタイルが良いだろう。

***

という訳で短期的な成功は難しい事を説明した。では、我々は運命の荒波の中で揉まれるだけの無力な存在なのか?

決してそういうわけではない。例えば、過去の偉大な研究の成功事例に学ぶことが出来る。過去の成功事例を見ると、計画通りではなくて、ふとした閃きや、思いがけないデータが研究を大きく飛躍させた事例を目にする。

それは【セレンディピティ】と呼ばれる。Wikipediaで「セレンディピティ」を見るとこうある。

セレンディピティ英語serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

Wikipedia セレンディピティより引用

なんやて~やっぱり偶然に身を任せってことかい!?

そういうわけではない。セレンディピティは自然科学の文脈で使用されるときはやや異なった意味を帯びる。

セレンディピティは、失敗してもそこから見落としせずに学び取ることができれば成功に結びつくという、一種のサクセスストーリーとして、また科学的な大発見をより身近なものとして説明するためのエピソードの一つとして語られることが多い。

(中略)

「構えのある心」(the prepared mind)がセレンディピティのポイントだという。

「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」

Wikipedia セレンディピティより引用

これだ!【構えのある心】!最重要キーワードだ!

ラッパー
ラッパー

Say!!構えある心!Yo!!

科学者パライ
科学者パライ

Hey!!構えある心!Yo!!

科学は不確実に満ちている。常に上手くいくとは限らない。だが、長く科学に携わっていると必ず目の前にチャンスが流れてくることがある

そのチャンスは一見失敗の顔をしてやってくる。その擬態を【構えのある心】で見破り、セレンディピティの尻尾を掴む。これが真に力のある科学者だ。

青カビの周りに細菌のコロニーが無い。この一見失敗の顔をしたデータの本質を見抜き、抗生物質に繋げたフレミングは間違いなく優れた科学者だった。

セレンディピィティとは単なる偶然では無く考え抜いた者にのみ訪れる必然なのだ。

では、構えのある心とは何か?

ずばり、亀さんの心だ。

亀さんは歩みが遅い。ゆっくり考えながら進む。実験の意味をしっかり考え、再現性のある確かなデータをとる。得られたデータは独断で解釈せずにディスカッションを通して解釈し、次の実験計画を立てる。

ここには【正しいデータ、正しい考察、正しい会話】という科学研究の基礎教養が揃っている。

更に、亀さんはゆっくり歩むので多様な風景を見ながら進む。更にそのひとつひとつを観察している。つまり、他分野の一見関係なさそうな情報もインプットしながら進むのだ。

この広範囲の多様な情報をインプットし、俯瞰的に解釈する力はかなり重要だ。なぜなら過去の偉大な研究は【異なる領域の境界に存在する】事が多いからだ。

クリックケミストリーは有機合成とバイオロジーを結び付けた。CRISPRは純粋な細菌とウイルスの戦争研究というニッチな領域から、遺伝子編集という飛躍を遂げた。最初の分子標的薬を発明したエールリヒをご存じか?彼はある種の染料が梅毒細菌に集積する事に着目し、染料にヒ素を結合させ【サルバルサン】という分子を作った。最近ADCが流行りだが、最初の分子標的薬が、ADC的な発想で産まれたことは驚きだ。そして、これらの発想の飛躍は広域な情報のインプットなしには不可能だ。

これらの異分野間のジャンプは、広域な情報のストックによって達成されるだろう。どこにジャンプするかは予測できないから、なるべく広く情報を収集したほうが良いだろう。

【構えある心】とは自分の研究を【深く/正しく】遂行し、その上で、多様な情報をストックし、それらを目の前のデータと自在に結び付けて解釈する柔軟な心だ。

なので、焦らずゆっくり歩めよ、というのが私からのアドバイスだ。目の前をどれだけの失敗が流れていても失望する事は無い。一喜一憂するな。研究ってそんなもんだ。ドMになれ。

失敗を山の様に積み上げながらもスキルアップを重ね、知識を積み上げてゆけばいつか流れてくるセレンディピティの尻尾を掴む事が出来るだろう。失敗の中からセレンディピティの尻尾を見分けられる教養を手にした時点で、あなたの勝ちは確定だ。ただ、その勝利が1ヵ月後か10年後か、いつ訪れるかははわからない。研究ってそういうもんだ。のんびりどっしり待とう。亀さんは焦らない。

さて翻って、ウサギは早い。だが景色も早く流れ、奴の目には全ての失敗は同じ様に見えるだろう。狭すぎる目的志向は不確実性の高い科学研究とはマッチしない。たまたま成功しても2度目は無いだろう。そしてイノベーションに繋がるような大きな飛躍はウサギ的な研究からは産まれ難いだろう。

亀さんで良い。ゆっくりでいい。焦るな。正確なデータを取って、考えて、対話をしよう。分野外の論文を読もう。研究とは一見関係ない本も沢山読めばいい。やがて、あなたの目は肥えていく。目の前を流れていく多くの失敗データの中から【セレンディピティの尻尾】を見分けられる様になっているのだ。

これが長期的な勝利だ。

***

因みに私は非常にせっかちな性格で学生の頃の実験スタイルは完全にウサギタイプだった。カラムを15本並べて後輩にどや顔していた。だが、会社に入り欠落している実験スキルの多さに気が付いた。表面だけ分かったつもりでいても、深部まで理解していないと応用ができないのだ。かくして私は会社に入ってややせっかちなカメさんとなった。

ややせっかちな亀さんスタイルを数年やってみて、亀さんの無限の可能性に気が付いた。異分野の論文や全く関係の無い本を読みまくった結果、これまでとは異なる発想でデータを捕えている自分に気が付いた。助走期間は終わりに近づいたようだ。これから高く飛ぼう。ジェット亀さん、つまりはゼニガメからカメックスへの進化だ!

ここまでのまとめ
  • 科学は不確実な学問なので短期勝利は狙えない。
  • セレンディピティを掴むには【正しいデータ、正しい考察、正しい会話】と【多様な情報のストック】と【それらを結び付ける柔軟な心】が重要。これらを総称したものが【構えのあるこころ】 だ。
  • 【構えのあるこころ】を持つには【亀さんスタイル】が至上だ。

という訳でカメさん戦法に魅力を感じて頂けただろうか?

もし、魅力を感じたぜ!俺/私もドMになります!という奇特な方は、以下のを内容もご参照ください。具体的な亀さんの日常生活を説明していく。

亀さんの日常

亀さんという生き方に魅力を感じたドM野郎に以下の情報は参考になるだろう。

ここからは亀さん研究者の日常を具体的に説明する。

ややド極端な部分がある。私の性格上の問題だ。誠に申し訳ございません。丸ごと鵜呑みにせずに良いとこどりで適度に参考にして貰えたら良い。

基礎編は修士レベルで身に着けたい。応用編は博士/企業研究者レベルで身に着けたいところだ。

基礎編①:多くをやろうとしない

まずは、これが土台だ。究極、やるべき事は【サイエンス】だけで良い

小学生
小学生

いきなりド極端だなぁ…

マスター
サイエンスマスター

ガキは黙ってな。

英語、プレゼンスキル、文章力、その他諸々。どれも重要そうで手を出したくなる気持ちは解る。だが、色々手を出してサイエンスが崩れれば研究者として本末転倒だ。

サイエンス以外も出来るならば別にやったら良い。素早く動ける亀さんもいる。また、違う事をするのは気分転換になって良いかもしれない。ただ、サイエンスはしっかりやろうという話だ。

英語論文はGoogle翻訳で意味を取ればいい。論文と英語を一緒にやるのは非効率だと思う。英語を習得したければ、英語を集中してやればいいのだ。マルチタスクは効率が悪い。最近では科学単語に特化した単語帳もある。科学英語をマスターしたければ論文でやる必要はない。

因みに、亀さんスタイルはあらゆる分野に応用可能だ。英語だろうが、プレゼンスキルだろうが、本質を理解しながら進む亀さんスタイルは、あらゆる分野で通用する。

従って、まずはサイエンスを通して亀さんスタイルを身に着けよう。亀さんスタイルが身に沁みれば、英語でもプレゼンスキルでも、他は後から必要性に応じて習得可能だ。

就活で必要になるまではどっぷりサイエンスに浸るのがおススメだ。というか社会人になれば嫌でも色んなスキルを求められるので、サイエンスにどっぷり浸かれるのは学生の頃だけだ。なので、私は【サイエンス至上主義】これをおススメする。

基礎編②:実験操作を説明できる

いろんな実験操作があるが「なんでこれやるの?」を説明できることが亀さんスタイルの第一歩だ。

実験がルーチン化すると、案外ここがおろそかになる。ウサギさんタイプは説明できない事が多い。

実験操作を説明できるとデータの質が向上する。再現性のあるデータに基づいた推論でないといかなる飛躍もあり得ないので、まずこれは必要条件だ。

ゆっくり実験の意味を考えながら実験しよう。最初はね。慣れたら加速しよう。ゼニガメからカメックスへと進化しよう。(今の学生さんにカメックスは通用するのか?)

基礎編③:ディスカッションの本質を理解する

亀さんは対話が好きだ。とりあえず実験の手を止めて対話をしよう。

一人の知識は限られているので、議論を通して新たな気づきを得るのが重要だ。

ただ、重要なのはちゃんと議論できる人を選んで議論しよう。でないと時間を浪費する事になる。

悲しい事に議論の本質を理解している人は案外少ない。

例えば会社の会議。会議を義務と感じたり質問を攻撃と感じたりする人がいる。

会議とは【事実を共有しみんなで検証したら計画が良くなる】という仮説の基で成り立つものだ。有益だと仮定しているのだ。この仮定を参加者が理解していないと、会議を使って自分の優秀さを示そうとする者が現れたり、重箱の隅をつつくような指摘がでたり、参加者が無関心になったりする。会議とは、みんなの力を合わせて未来へ前進する為のものなのに、足を引っ張りあうどろどろの地獄絵図がしばしば見られるのは、参加者の会議への理解の欠如が原因だ。

ディスカッションも同様だ。ディスカッションの目的は【データを共有し、みんなで検証したら研究計画が良くなる】という仮説の基で行われるべきだ。

という訳で、ディスカッションはあなたを攻撃するためのものではない。データを楽しく開示しよう。仮にディスカッションを通してあなたを攻撃してくる者がいたら、その人にデータを開示する必要は全くない。なぜなら、ディスカッションの本質を理解しない者とディスカッションは成り立たないからだ。

ディスカッションの本質を理解している人とだけ、ディスカッションしよう。そういう人を見つけよう。指導立場にある人はそういう人になろう。時間は有限なので、無駄な時間は過ごしたくない。最近では、私はデータを開示する相手をかなり選んでいる。そのお陰で時間を有効活用できていると感じる。

基礎~やや上級編:視野を広げる為に他分野の論文を読もう

とにかく論文読め。多様なインプットを積み上げよう。既に説明した通り、広域なインプットがセレンディピティの尻尾を掴む鍵となる。

論文を読むのはTwitterがおススメだ。まずはTwitterのリスト機能を使って、気になるジャーナルのリストを作ろう。

因みに私は下記のツイートの感じで論文を毎日2時間読んでいる。29ジャーナルを俯瞰して把握している。

いきなり二時間はハードルが高いかもしれない。まずは1時間程度やってみよう。時間帯を決めてルーチン化する事が続けるコツだ。朝がおススメだ。早起きの習慣もついてよい。更に読んだ論文を140字に纏めてツイートするのもおススメだ。「いいね」が貰えるとモチベーションアップに繋がる。

他分野の論文は全てを理解しようとせず、アブストだけGoogle翻訳に突っ込んで、ふわっと理解すれば良い。ただ、ノートなどにメモを残してたまに見返せるようにした方がいい。Twitterでも良いと思うが、タグ管理などして辿れるようにしといた方が良い。

ふわっと理解は時間がたつと消える。ノートやツイッターで記録して、たまに見返そう。反復によって定着する。

これを数カ月続けると、世間のトレンドがわかるようになる。「なんか最近、個別化医療の論文多いな~」「CRISPRの報告数半端ないわ!」「中国ってすごいかも…」という風になってくる。

やや上級編になるが、俯瞰してピックアップした注目分野に関しては、一気に深部に潜ることをおススメする。つまり、腰を据えてその分野集中的に調べまくるのだ。これをやると知識が血となり肉となる。失われることは決してない。俯瞰の知識はいつか失われる。だから、重要な分野は深部に潜り血肉にしよう。

因みに私はTwitterで俯瞰、ブログで深部に潜るという運用をしている。

最近では【中国】【AD】というキーワードが多く散見されたため、ぐっと潜って1週間ほどかけて両分野を調べ尽くし記事とした。血肉となったのだ。因みに【中国】【AD】の記事はこんな感じね。凄く長いので暇なら読んでね。

俯瞰して、あたりをつけて一気に深部へ潜る。このサイクルが幅広い確かな知識をつけるのには最も効率が良いだろう。ややしんどいが、頑張れ。

因みに、本も知識を得るのには効率的だ。日本語だし、物語があるのが良いよね。ブルーバックスからは良い本がでてるし、ノーベル賞級の研究であれば、たいてい日本語の本が出ている。それらをじっくり読む事も科学的教養を身に着けるのに役立つだろう。

科学的教養を身に着けられるおススメの本を列挙する。

科学的教養を身に着けるのにおススメの本

「CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見」「美しき免疫の力」「失われゆく我々の内なる細菌」「あなたの体は9割が細菌」「つながる脳科学」「やわらかな遺伝子」「攻撃」「愛と憎しみ」「代謝がわかれば身体がわかる」「やわらかな遺伝子」「意識はいつ生まれるのか」「アルツハイマー病 真実と終焉」「土と内臓」「腸と脳」「世界史を変えた薬」 「新薬の狩人」

私の仕事関係上やや創薬に偏るが、多くは現代の注目分野に関する本だ。気になったタイトルから読み始めては如何か。え?実験が忙しい?日曜くらい休んでゆっくり読書したら良い。亀さんスタイルは長期的に勝つスタイルだ。目先に振り回されるのではなく、まずは根っこをしっかりさせよう。

また、物事の本質を知るために科学以外の本を読む事も重要だろう。「サピエンス全史」を強く推奨する。

哲学編:具体を大切にする。具体のない抽象に気を付ける。

亀さんの日常は何となくわかった。では次は頭の中を覗いてみよう。亀さんの哲学だ。

亀さんは具体を大切にする。

え?意味が解らんって。

例えば「視野を広げろ!」みたいな抽象度の高い言葉を言う人がいる。でも「なんで?」と聞き返すと、案外切れ味の悪いもこもこした回答だったりする。

具体を持たない抽象論はでっかい空洞だ。風船の様に空虚で地に足がついていない。内容がない。無視して良い(ド極端)。

抽象論はわかりやすいし、なんだかかっこいい。魅力的でコミュニケーションを円滑にする。だから、世の中の情報を見ると空虚なでっかい風船がぷかぷか浮かんでいる。

企業研究者でもこういうタイプはいる。所謂政治家タイプで、研究の細部の具体までは理解していないが、でっかい方針を決めるやや抽象的な会議で本領を発揮する。説明が上手だし、相手が知りたい結論を簡潔に示すので大変すばらしい。だが、具体が無い空虚であり、そこに血肉はない。

抽象を磨くプレゼンスキルも重要だが、研究者に重要なのは具体だ。具体の蓄積によって抽象を産むのだ。これ以外の順番はない。先に具体だ。抽象論に出会ったら「それって具体的にどういう事ですか?」と聞いてみよう。

ただ、やりすぎると嫌われる恐れがある。抽象を気持ちよく喋っているところに「なんで?」と冷や水を浴びせたらそら当然気分が悪い。嫌われるだろう。危険だ。なので、自分で考えたり、調べたりする癖をつけよう。ついつい口に出したくなる気持ちもわからんでもないが。危険だ。

科学者パライ
科学者パライ

だから!!!やりすぎると嫌われるって言ってんだろ!!!(血の涙)

マスター
マスター

涙ふけよ。苦労の分だけ良いことあるさ。

科学者パライ
科学者パライ

え、なんで?

マスター
マスター

……

適度なバランスが大切だ!

***

要するに、亀さんは【自分の頭/言葉で考えて物事を理解する】という人生哲学を持っている。

「若いうちは苦労したほうが良いよ」「人間関係が大切だよ」「挨拶は重要だよ」などなど言われたら「なんで?」って心の中で考えよう。因みに、私は挨拶は重要だと考えている。なぜなら人間を人間足らしめる最大の特徴は群れを作る能力で、それは太古のアフリカで認知革命によって達成され、それによって生まれた桁違いなサピエンスの群れが他動物を圧倒し食物連鎖の頂点に君臨したサピエンスの群れを貫く爽やかなおはようございますによって課長部長社長がにこにこ、契約とりまくりで業績もV字回復で今年のクリスマスは絶対あの子にプロポーズするや!となるからである。文句あるか。

こうやって物事を深く考えていくと歴史に行きついたりする。人間関係とは何か…?みたいに考えていると進化の歴史に辿り着いたりする。

この様に物事の根本を辿る、つまり【長い伝言ゲームの最初に人に会いに行く】作業は研究者には重要だ教養だと思うのだ。

***

なお、具体から抽象を組み立てる手法に関しては「メモの魔力」という本が大変参考になる。私は、本や論文を読むときは、メモノートを作って、左側に具体を書き込み、それを抽象化する。Twitterに投稿するのは主にこの抽象の部分だ。

こんな感じにメモしている。これは「21 Lessons」を読んだ時のメモの一部。一番左が「具体」でそれを右隣に「抽象化」する。更に一番右は「気づきや疑問」を書き込む。

抽象と具体の行き来がスムーズになると、プレゼンスキルや文章力も上がったりする。

え?お前の文章読みづらいって?ごめんなさい…まだ発展途上なんだもん。

上級編:エビデンスの階層と照らし合わせて情報を処理する

論文をたくさん読む事が習慣化してきたら、それらをエビデンスの階層に照らし合わせて理解できるようになろう。因みにこのエビデンスの話は創薬に限定的かもだが、関係ない人も一般教養として知っておいて損はないだろう。

エビデンスピラミッドというのは非常に重要な概念で、情報が溢れる世の中で似非科学と本当に科学を見分けるのに重要な教養だ。

ここでは簡単に触れるだけにするが、科学研究は因果関係を可能な限り証明したい。例えばこの薬を飲んだから、風邪は治る。を証明したい。その時、風邪マウスにおける実験と、ヒトの試験では、当然ヒトの試験の方がエビデンスレベルが高い。

動物実験、専門家の意見、疫学、ランダム化比較化実験、メタアナリシス…いろんな試験があるがそれらのエビデンスレベルを整理しピラミッド型に図示したものがエビデンスピラミッドだ。

今読んでいる論文の情報がどの階層だろうか、という事を意識して論文を読めればベターだ。なお、エビデンスレベルが低い=価値がないわけではない。まだ証明されていないだけで、今後ピラミッドを駆け上がり、価値を生む可能性がある。ここら辺の解釈の柔軟さが重要なのでこのスキルは上級編とした。

エビデンスに対する理解を深めたければ「統計学が最強の学問である」「原因と結果の経済学」あたりの本をおススメする。統計学の概要を専門外の人でお理解しやすい様に説明している良書だ。

番外編:対象している科学の複雑性を理解し、時にはサイコロを振る(空席理論)

番外編だ。あまりおススメはしない。というかこの章はほぼ亀さん関係ない。が、私はこれから述べる【空席理論】という理論に沿って行動していることが多い。この理論を最後に説明していこう。

まずはこのCMを見て欲しい!たったの30秒にこの理論の本質が凝集されている!

Predictions Commercial

ゲストはノーベル経済学者。司会者が訪ねる「2年後の定期貯金金利が何%になるか予測できますか?」世界最高の経済学者の答えは「わからん」だ。

経済の事は良く解らないが、凄まじく複雑な問題を前に、人間の知識は無力だという事だ。

「わからん」と言ったこの経済学者はとっても賢い人なのだろう。多くの人にとって「わからない」は最も言い難い言葉だ。

時に科学もその複雑性が人知の遥かに超える場合がある。動物モデルの実験などは試験に影響する因子が多すぎてわけわからんくなる。

そんな時でも科学者は、死ぬほど考えて、深く深くデータを解釈し、頭から湯気がでる程考えて、これだ!と思う道を決めて進む。

素晴らしいじゃないか!科学者の鏡だね!

だが、本当にそうなのか?というのが私の問いだ。

対象としている科学が人知のレベルを超えた複雑性を有している時、深い考察は思い込みとなる。

私の学部時代の話をしよう。当時の私はとある触媒を開発していた。その研究室の過去の知見から、触媒のある構造を大きくしたら良いよねって事が解っていた。私は新規の反応を触媒する新規触媒の開発を行っていたが、教授も助教も先輩も「ここをでっかくしといてね」と言った。でも私はとりあえず小さくした。何故か?わからん。小さくしろと俺の心の中のアナーキストが叫んでいたのだ。結果として、その小さい触媒がブレイクスルーとなり、私はトップジャーナルに論文を出した。教授は苦虫を噛み締めたような顔をしていた。卒業する時には笑顔で送り出してくれたが、私の就職先の偉い人に「あいつは変人からマジで気を付けろ」という有難い忠告をしてくれたりした。

当時の私は上記の経験の中で起きた物事の本質を全く理解できていなかった。「やったぜ!」としか思っていなかった。だが、今ならわかる。人知を超えた複雑性の前にいるのも関わらず、自分は理解しているとみんなが考えていた。そんな中、私がやったことは、誰も可能性を検証していなかった【空席に座った事】だった。

【空席に座る】すなわち誰も試してなかった実験を何となく、心の中のアナーキストに導かれてやった。アナーキン・イン・ザ・実験室。この本質は【成功確率を上げた】という事だ。

すなわち、科学の複雑性が人知を超えたときには、正しい推論にのみフォーカスするよりも、そのほかのなるべく幅広い可能性を検証したほうが良い。多くの空席を埋めたほうが良いのだ。なぜならば、人知を超えた複雑性の前では全ての可能性が同じ成功確立だからだ。分かっていると【思い込んでいる】だけだ。その思い込みが成功確率を下げている。わからんと知る事が重要だ。

例えば、サイコロを振ってどの値が出るか?みたいな問題に対し、過去の知見とか推論から「3が出るに違いない」とかみんなが言ってる中であなたが「1」の席に座る。するとどうなる?成功確率が1/6から1/3まで跳ね上がった。

これが【空席理論】だ。私は学生の頃、無意識にこれを実施し成功した。思い込みを打ち破った。そして会社で今なお誰も座らない席にわざと座っている。こいつやべぇみたいな目で見られている。孤独だ。つらたん。だが、私はドMだ。

「わからん」事を知る事も重要だ。分からん場合はなるべく沢山の空席に座る事だ。あれもこれもやることが重要だ。「無駄だ!優先順位をつけなさい!」とみんなは言うが「無理です!全部やります!」という事も必要だ。

**

基本的には私は無駄が嫌いなので、凄く優先順位をつける。だが、あ、これはわからんとなったら思考をストップしてひたすらサイコロを振り続ける。

どこからが【わかる】でどこからが【わからん】なのかは非常に難しく多分答えは出ない。だが、きっと優れた科学者はその境界を見抜き、優先順位をつける領域と、ただひたすらサイコロを振る領域によって行動を変える事が出来るのだろう。

なんかもはや亀さん関係ない話になったけど、研究者の人にはなんか思うところある話になったかな。そうだと良いな。おわり。

コメント

タイトルとURLをコピーしました