【世界を変えたタンパク質】チャネルロドプシン【光で記憶を操作する】

レビュー

どうも、科学者パライです。

いきなりだが、ちょっと前にツイッターで以下の様なアンケートを行った。

「世界を変えたタンパク質ってなんですか?」

世の中には、発見され、機能が解明され、応用されたことで、世の中を一新したタンパク質が存在する。アンケート取ったらどんなタンパク質が挙げられるかなと思ったのだ。

フォロワーの皆さんから様々な視点で計23個のタンパク質を挙げて頂いた。ご回答いただいた方ありがとうございます!

結果は以下の様になった!

アミロイドβ部長
課長

引用リツイートでの回答は全て集計できていない可能性があります。

ご了承ください。

アンケート結果!
  1. GFP/イクオリン(8票)
  2. Taq/KODポリメラーゼ(6票)
  3. インスリン(3票)
  4. ロドプシン関連(2票)
  5. Cas9 (2票)

以下は全て1票。

  1. ユビキチン
  2. ルシフェラーゼ
  3. ヘモグロビン
  4. リボソーム
  5. アミロイドβ
  6. 制限酵素
  7. グルテン
  8. ペルオキシダーゼ
  9. アルカリフォスファターゼ
  10. RubisCO
  11. リツキシマブ(抗体医薬)
  12. Argonaute
  13. β-ガラクトシダーゼ
  14. 免疫グロブリン
  15. インテグラーゼ
  16. トリプシン
  17. クレアチニン(低分子だが、まぁ細かいことは良いだろう!)

なかなか興味深い結果になった。

という訳で、気が向くままに上位のタンパク質に関して解説記事を書いていく。執筆ペースは遅いが、色々調べながらのんびりと書いていく予定だ。

本日は「チャネルロドプシン(ロドプシン関連)」について解説していく。

どや顔マン
どや顔マン

え!?1位から順番に解説していくんじゃないの!?

科学者パライ
科学者パライ

……まずはチャネルロドプシンだ!

正直に言うとGFPやポリメラーゼに関しては知識がない。ちょっと勉強してから記事にしたいので待っててねってのが本音だ。

さて、という訳で「チャネルロドプシン」。光で世界を変えつつあるこの不思議なタンパク質がどこからきて、どの様に世界を変えつつあるか、分かり易く説明していく!

光で記憶を操る【オプトジェネティクスの衝撃】

光で記憶を操る、などと言ったら驚くだろう。ちょっと犯罪の臭いがする。だが、脳科学はその領域に到達している。

BLUE BACKSの「つながる脳科学」は脳科学の最新研究をわかり易く解説した本だ。

この本の中で、マウスのニューロンを人為的に発火させる事で、マウスの頭の中に記憶を作り出すという研究が紹介されており非常にぶったまげた。すごい研究だ。

簡単に解説しよう。

ある経験をすると特定のニューロン群が発火する。発火はやがて収まるが、ニューロンには物理的な変化が維持される。これが記憶である。私たちが何かを思い出しているとき、昔に発火したニューロン群が再び発火しているのだ。では、ニューロンを人為的に発火させることが出来れば、経験なしに記憶を想起させることが出来るだろうか?

答えは「YES」だった。科学者たちはマウスを用いた実験で、人為的にニューロンを発火させ、経験なしに記憶を想起させることに成功した。具体的には下記の様な実験手順を踏んだ。

  1. 【記憶を作る】:まずマウスをゲージAに入れ、電気刺激を与える。びりびり。マウスは「ゲージAやばい、超怖い」という記憶を形成する。
  2. 【恐怖ニューロンを同定する】:マウスが「ゲージAやばい」と感じる時に発火するニューロン群を同定する。更に、ニューロン群が発火している際に上昇する遺伝子群を同定する。
  3. 【恐怖を励起する】:マウスをゲージBに入れる。勿論マウスは恐怖を感じない。飄々としている。ところが、オプトジェネティクスという手法で、同定した恐怖ニューロンを発火してやるとマウスは恐怖を感じた。

なかなか凄い実験だ。あたながお化け屋敷に行って「怖い」という記憶を作る。後日、部屋でくつろいでいるときに、怪しい科学者集団がいきなり脳の特定のニューロンを活性化し出す。するとあの日のお化け屋敷の記憶が蘇り、恐怖で全身が包まれる。そこにお化けはいないのに!

例えるならばこんな感じだろうか?(違う…?笑)

という訳で、科学者たちは人為的に記憶を操作する事に成功している。

(注)なかなか酷い実験に感じるかもしれないが、こうした研究の目的は医療への貢献だ。例えば、今回の実験とは逆に楽しい記憶を励起させることでうつ病が治療できる可能性がある。また、記憶について研究し、忘却のメカニズムがわかれば、認知症の治療に繋がる可能性がある。

【余談:脳科学と倫理について】

ちなみに、記憶は感情と密接に結びついている。何かを思い出すと大抵何かしらの感情も思い出されるものだ。記憶を操作するという事は、そこに紐づく感情も同時に操作できるという事だ。

では、いつでも陽気で居られる様に脳を操作してほしいだろうか?恐らくノーだろう。

また、近年では脳科学が進歩して様々な神経回路が同定されている。例えば、マウスにおいて子育てにcMPOAという脳部位が重要である事がわかっている。この部位が破壊されると母マウスは小マウスを殺すそうだ。逆にcMPOAを活性化すると子育てを熱心に行うようになる。

では、仮にヒトでも同様の部位を発見できたとして、虐待を行う母親の脳に介入すべきだろうか?恐らくノーだろう。

コンラート・ローレンツ博士は「攻撃」という本の中で以下の様に述べている。

消化器を理解し介入して治療する事に対し、特に文句を言う人はいない。というのもこの器官の働きに、特別の畏敬や尊敬を払っていないからだ。

一方で、脳への介入はタブーだ。人間は、自分の心の働きに誇りを抱くあまり、科学的に調べ、それを白昼の下にさらすことに強い抵抗感を感じる。

コンラート・ローレンツ「攻撃」より引用

脳に介入するのはなんかイヤだ。一方で、我々は消化器を理解し介入し治療する事に、特に抵抗を感じない。脳とそれ以外の臓器に対して、私たちの認識は大きく異なる。

脳は腸や腎臓なんかと違って神聖な場所だと多くの人が考えている。

従って、脳研究には常に倫理的な問題が付きまとう。

オプトジェネティクスを可能にした革命児【チャネルロドプシン】

ところで、上記の哀れなマウス実験の中で「人為的に特定のニューロンを発火させる」とさらっと書いたが、そんな芸当が可能なのだろうか?マウスの頭の中の特定のニューロンだけを発火させる。どう考えても難しそうだ。

この芸当を可能にしたのが「チャネルロドプシン」というタンパク質なのである!

本日の主役の登場だ!

チャネルロドプシンは簡単に言うと光に反応して陽イオンを細胞内に取り込むタンパクだ。

具体的には、470 nm程度の青色光を吸収すると活性化し、陽イオン特にNa+を取り込む。このタンパク質をニューロンに発現させ、青色光を照射するとNa+がニューロン内に流入し、ニューロンが興奮する。

つまり、チャネルロドプシンを操作したいニューロンに導入し、光を当てる事で【特異的】かつ【タイムリー】にニューロンを脱分極し発火できる。

【特異的】かつ【タイムリー】という2点が従来法にない画期的な点であった。この利点によって神経活動と行動を結び付けて考える事が可能になった。

つまり【このニューロン】を発火させた【時に】こう動く、という事が観察できるようになった。特定のニューロンの発火とその瞬間の行動が紐づいた。これは凄い事だろう。

ちなみに、従来法は電極を刺して刺激を与えたり、また低分子を用いて活性化/抑制を行ったり、チャネルロドプシン以外の光反応性のタンパクを使ったり、などと色々試行錯誤はあった。が、従来法はいずれも特異性&タイムリーさに欠けた。従来法に関しては、この総説の「チャネルロドプシン以前」という章が大変参考になる。

チャネルロドプシンを神経細胞に導入し光で操作する手法は「オプトジェネティクス=光遺伝学」と呼ばれ、2005年に登場した手法である。最初は試験管内でチャネルロドプシンを発現させたニューロンを発火させていたが、2007年の報告では生きたマウスのニューロンにチャネルロドプシンを導入し、光ファイバーを脳内に挿入しこれを興奮させた。

現在までに、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、霊長類において光遺伝学の応用例が報告されている。

光遺伝学は2010年にNatureから最も優れた研究手法としてMethod of the Yearに選定されている。 世界が「これ、ちょっと凄いわ」と認めた訳だ。そのすっごい技術の基盤を支えているのが「チャネルロドプシン」だ。

という訳で「チャネルロドプシン」は世界を変えたタンパク質のひとつだろう。正確には、今まさに世界を変えつつあるタンパク質であるかもしれない。脳科学は現在進行形でどんどん進展しているからだ。その進展をチャネルロドプシンが支えている。

では、そのタンパク質はどこから見出されたのか?

脳科学に革命を起こしたタンパク質は、沼地を楽しく泳ぎ回る「緑藻類クラミドモナス」という単細胞生物の眼点から発見された。

次の章では、いよいよチャネルロドプシンの発見について解説していくわけだが、その前にちょっと遠回りして、チャネルロドプシンの兄弟であるロドプシンについて触れる。

ロドプシンを通してチャネルロドプシンを眺めたほうが、光で世界を変えつつあるチャネルロドプシンの特徴がより理解できると考えるからだ。

ロドプシンとチャネルロドプシン【増幅かスピードか】

多くの生物は光を感知して何かしらの反応を示す。昆虫は光に群がるし、ヒトも眩しいぜっていって目を細める。

こうした動物の光感受性を司るタンパク質のひとつとして「ロドプシン」が知られている。

暗闇で目が見える仕組み:ロドプシンについて

ロドプシンは人の目にも存在する。主に暗闇でものを見る時に働く視細胞(桿体)にはびっしりロドプシンが詰まっている。ロドプシンは光に反応し「光入ってきたで!」というシグナルを脳に送る。よって我々は光を感じる事が出来る。では、どうやってロドプシンは「光入ってきたで!」と脳に伝えるのか?

ロドプシンはタンパク質の中に「レチナール」という分子を持っている。このレチナールが光を吸収すると構造が変化する。レチナールの構造変化に伴ってロドプシンも形が変わり、細胞内に「光入ってきたで!」というシグナルが入る。

レチナールの構造は下記の様に変化する。図中の赤色の部分がくるっと反転する。この「くるっ」のお陰で、私たちは暗闇でものを見る事が出来るのだからなんだか凄い。

※ちなみにレチナールはビタミンA誘導体だ。ビタミンA欠乏症が暗闇での視力低下を伴うのは、レチナールの量が低下するからだ。

レチナール分子1個の動的観察に成功 (産総研)より図を引用しました。

さて、目の守護神ロドプシンだが、最初はカエルの目から見つかった。

Wikipediaのロドプシンのページによると、最初にロドプシンが見出されたのは1876~77年くらいと結構昔だ。 ドイツのFranz Bollさん、続いてFriedrich Wilhelm Kühneさんがカエル網膜の桿体視細胞の外節にある赤い物質の感光性を報告した。

その後、牛のロドプシンのアミノ酸配列が決定されたり、βアドレナリン受容体とのとの配列の類似性から、ロドプシンはGPCRというタンパクファミリーである事がわかった。

GPCRの中でも非常に研究が進んだタンパク質のひとつである。

ロドプシンが光遺伝学に応用されなかった理由

ところで、光遺伝学に革命を起こし、哀れなマウスの頭の中に記憶を作り出したのはチャネルロドプシンであった。実はカエルや牛や私たちの目の中で「くるっ」と頑張っているロドプシンではない。ロドプシンとチャネルロドプシンの違いはなんだろう?

実は、ロドプシンとチャネルロドプシンは適切な波長を吸収して「くるっ」となる所まではほぼ一緒だ(※1)。その後、細胞に「光入ってきたで!」と知らせるシグナル伝達の方法が異なる。

※1:厳密には異なる。正確に知りたい方は【補足】をご覧ください。

ロドプシンは、Gタンパク質(下記の図でα/β/γと表記されているもの)を使って「光やで!」シグナルを細胞に伝える。くるっとなったあと…下記を見て頂ければわかる様にGタンパクが「うわー!」って大騒ぎする。どわー!!!きゃーー!!となる。そして最終的にCNGチャネル(右下)が開き、イオンの移動があって分極し、電気的なシグナルに繋がる。とにかく大騒ぎだ!祭りだ!

哺乳類の眼においての光情報伝達 _京大 今元研究室のHPより図は引用いたしました。

結局のところ、イオンの移動を伴う脱分極が最終目的だが、なぜロドプシンはわざわざGタンパク質を使ってまどろっこしい事をするのだろう?

Gタンパクを使ってシグナル伝達を行うメリットのひとつは増幅機構だろう。活性化した1つのロドプシンが活性化するのは1つのGタンパク質だけでは無い。細胞内でだらだらしているGタンパクを次から次へと活性化していく。「うわー!」「どうわー!」と次から次へと大騒ぎが起こる。活性化したロドプシンは、1秒間に数百のGタンパク質を活性化する。従って、微かな光でも感じる事が出来るのだ。良く出来ている。

***

ところで、ロドプシンも最終的には細胞を脱分極させて電位を生じているので、光遺伝学に使えそうじゃん?と思う。ニューロン活性化しそうじゃん?

当然、検討はされている。つまり、ロドプシンを神経細胞に遺伝子発現し、光を当てると、活動電位活が誘導された!やったぜ!

しかし、残念ながら反応が遅かった。活動電位の誘導まで光照射から数秒かかり、これではタイムリーな情報は得られない。

これは何処にも表記が見つけられなかったので私見だが、恐らくこの反応の遅さはGタンパクを介したシグナル伝達である事に起因するだろう。(間違ってたらご指摘ください)

暗闇の中でブレーカーを見つける為には大いに役に立つ生体メカニズムが足枷となり、ロドプシンは光遺伝学へと応用され華々しく世界を変える機会を失った。残念。(本人がそれを残念と思っているかは不明だが)

では、世界を変えたエリートタンパク質・チャネルロドプシンはどうだろうか?

やつはそんなに速いのか!?

スピードスター:チャネルロドプシン

ロドプシンはカエルとか牛とか脊椎動物の目から見つかっているが、一方で我々の肉眼では捉えにくい小さく楽しい微生物たちも、光に対して突進したりするビックリしたりする事が知られている。ここにもあのレチナールの「くるっ」がある。

【補足】厳密には「くるっ」の回転方向が動物とバクテリアのロドプシンでは逆だ。また回転が起こる場所も微妙に違う。つまり、動物のレチナールは「11-シス型→全トランス型」の変化を起こすが、バクテリアのレチナールは「全トランス型→13シス型」の変化を起こす。え、何故違うのかって!?私だって知りたいよ(つまりわからない)。

チャネルロドプシンは2002, 2003年に沼地を楽しく泳ぐ単細胞生物「 緑藻クラミドモナス 」より報告された。下記がクラミドモナスだ。かわいい。

東工大:科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 久堀・若林研究室のHPより図は引用しました。

クラミドモナスは長さ約12 μmの2本の鞭毛を平泳ぎのように動かして水中を泳ぐそうだ。眼点で光を感受して、光合成を行うのに最適な光の環境へと移動する。

この眼点で光を感知して「光入ってきたで!」と細胞に知らせるのがチャネルロドプシンだ。

では、チャネルロドプシンがどの様に「光入ってきたで!」と細胞に知らせるかを見てみよう。下記の通りだ。

Wikipedia「光遺伝学」より図は引用いたしました。

シンプルだ…!

先に見たロドプシンの「祝・Gタンパク祭り!」に比べ、なんとシンプルだろう。チャネルロドプシンは、光を受けるとレチナールがくるっと回転し、細胞内に陽イオンを取り込む。それによって脱分極が生じる。

光照射からチャネルが開口するまでの反応時間は非常に早く、30マイクロ秒以内である。

このシンプルさ、そしてこのスピード故に、チャネルロドプシンは光遺伝学に革命を起こすことが出来た。スピードスター万歳!

【補足】微生物由来のロドプシンは他に「ハロロドプシン/アーキロドプシン」などが知られている。前者はクロライドイオンを細胞内に取り込み、後者はプロトンを細胞外に排出する。すなわち、両方とも過分極を起こし、神経細胞を抑制する方向に働く。近年ではハロロドプシン/アーキロドプシンを光遺伝学に応用し神経細胞を抑制する研究も進んでいる。増幅機構が無いため、大量のロドプシンを細胞膜上に発現させる必要がある。

まとめ

という訳で、チャネルロドプシンは光遺伝学を通じて、どの様に世界を変えてきたか、そして何故チャネルロドプシンがそれを達成できたかを兄弟ロドプシンを通じてみてきた。

纏めると以下の様になる。

  • ロドプシンは光に反応し細胞を脱分極する。
  • ロドプシンをニューロンに導入し、光を当てれば人為的にニューロンを発火できる。
  • しかし、ロドプシンは光を受けてから脱分極までに時間がかかる。
  • 一方で、チャネルロドプシンは速い。
  • 従って、チャネルロドプシンをニューロンに導入し、光を当てて活性化する【オプトジェネティクス】の研究が進んだ。
  • オプトジェネティクスによって、マウスの【特定の】ニューロンを自由自在に操作し、記憶を想起させたり、ニューロンと行動の関係性を【タイムリー】に研究する事が可能になった。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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