低分子 vs バイオ医薬品について本気出して考えてみた【低分子医薬品は消えるのか?】

レビュー

こんにちは、製薬企業で研究を行っている科学者パライです。

ツイッターでは酔っ払い科学者という名前で、ほぼ毎日、科学論文の日本語要約を発信しています。

本日のテーマはモダリティだ!

ところで、ここのところ創薬の現場では【新モダリティ】という言葉をよく聞く。従来の創薬は化学合成で作られる低分子医薬品が中心だったが、近年のバイオテクノロジー技術の進歩に伴い、バイオ医薬品の存在感が増している。

その中で必ず出てくる議論として「この先、低分子医創薬は無くなる、もしくは大幅に縮小するんじゃないか?」というものだ。

至るところで議論される内容で、色んな人が様々な意見を言っている。だが、自分で深く考えたことは無かった。という訳で、この問いに対して情報を収集し考えてみる。

果たして、低分子創薬は消えて無くなるのか?

※ここで公開している情報は全て私がプライベートで収集した情報です。発言の内容は所属する組織とは一切関係ありません。

バイオ医薬品とは?

バイオ医薬品とは、一言でいえば生物の力を利用してつくる薬だ。

従来の化学合成医薬品は、様々な薬品を化学反応させて作る。これに対し、バイオ医薬品は細胞や微生物を使って作る。

なぜ、細胞や微生物を使うのか?化学合成では作れないものを作りたいからだ。

化学合成では作れないものとは何か?それはタンパク質だ。

細胞や微生物はタンパク質(ホルモン、酵素、抗体など)を作ることが出来る。これらは薬剤として利用できる。タンパク質は複雑な構造を持ち、化学合成で作ることは困難だ。従って、生物に作ってもらう。

バイオ医薬品とは、生物の力を使ってつくったタンパク質(ホルモン、酵素、抗体など)を有効成分とする薬剤だ。

上記の説明は厚生労働省主催「バイオ医薬品・バイオシミラーって何?」のスライド内容を参考にした。非常に分かり易いスライドだ。

よって、バイオ医薬品は従来の低分子医薬品よりも【でかくて複雑】で【製造方法が異なる】。下記の図がイメージしやすい。

Kyowa KIRINのHP「バイオ医薬品とは」より図を引用させて頂いた

ここでは詳しく述べないが、バイオ医薬品はいわゆる【生モノ】を使って製造するので、品質保証が低分子医薬品に比べて難しい。生産細胞の状態・製造条件によって最終生成物の品質が変わりうる。品質が変わると、有効性・安全性に影響するので、バイオ医薬品の製造において品質保証は非常に重要だ。

従って、開発・製造・品質の管理に高度な技術や大規模な設備・数多くの試験が必要となる。その結果値段が高くなる。高額な抗体医薬が世に出て、医療財政の破綻の危機が叫ばれる背景はここにある。

なお、本記事の内容と直接関係は無いが、国内のバイオ医薬品の販売重量(kg)は年々増加傾向だが、国内の製造量はそこまで伸びておらず、多くは海外で生産されているとのリサーチ結果(リンク先24-25P)がある。

国内に製造ノウハウが溜らないのはやや憂うべき事態かも知れない。

増長するバイオ医薬品【市場推移、承認数】

バイオ医薬品の市場推移

バイオ医薬品の市場は伸びている。平成26年の特許庁の報告書から引用した図を下記に示す。これは、世界の医薬品売上高ランキングの上位10位までの合計売上推移を示したものだ。上位10位だけで見ると、2012年時点で、抗体医薬が低分子医薬品の売り上げを上回っている。

平成26年度 特許出願技術動向調査報告書 抗体医薬 より図は引用

バイオ医薬品といっても色々ある。抗体・ワクチン・リコンビナントタンパク質(インスリンなど)・核酸・細胞治療、遺伝子治療などだ。その中で最も大きく伸びているのは抗体医薬品だ。

特許庁の調査は2013年度までだが、この傾向は近年も変わっていない。

2018年度、世界で最も売れた医薬トップ20を見てみると、20個中12個がバイオ医薬品であった。上位10位で見ると7/10がバイオ医薬品だ。下記のうち「ヒュミラ、ランタス、エンブレル、レミケード、オプジーボ、ノボララビット、キイトルーダー、ステラーラ、ハーセプチン、マブセラ、アバスチン、ヒューマログ」はバイオ医薬だ。

という訳で、バイオ医薬品、特に抗体医薬品の市場は非常に伸びている。

これだけ見ていると、確かに低分子創薬はこのままバイオ医薬品の勢いに飲み込まれてしまいそうな感じもする。だが、これは売上なので、高価なバイオ医薬品が市場を占め、売り上げトップに来るのはある意味当たり前かもしれない。だってそもそも高いのだから。

承認数や開発パイプラインを見る事で現状をより正確に把握できるだろう。

バイオ医薬品の承認数

バイオ医薬品の承認数は世界的に増加している。やや古いが2007年に報告されたJPMAのニュースレターによると、1991-1995年に承認されたバイオ医薬品が全体に占める割合は12.6%だったが、2001-2005年には21.9%にまで増加した。

JMPA ニュースレター バイオ医薬品開発の国際比較より図は引用しました

因みに、最近の国内の承認数の時間推移を確認すると下記の様になる。製薬協が公開している情報によると、2017年に国内で承認された医薬品のうち、バイオ医薬品が占める割合は3割程度だった。また、過去10年の推移を見ると2~3割を行ったり来たりしている。

製薬協 新医薬品の承認状況と審査機関より図は引用しました。

長いスパンで見るとちょっとずつ増えているといった印象だ。

因みに、FDA承認薬に占めるバイオ医薬品の割合は「2019 FDA drug approvals」という論文で確認できる(1993年以降)。米国でも同様に、バイオ医薬品の承認数は徐々に増えている様だ。ただ、2019年時点においても、やはり低分子医薬品が未だ承認薬全体の8割程度を占めている(48個中38個)

簡単に纏めると、バイオ医薬品は医薬品市場において急速に存在感を高めている。.承認数は緩やかに増加傾向しており、全体の2~3割を占めている。

という訳で、バイオ医薬品は徐々に勢いを増していることが解った。でもじゃあ低分子は終わりですね、これまでお世話になりました。さいならってのも乱暴すぎる結論だ。

この先では、バイオ医薬品が何が出来て、何が出来ないのかを整理していく。各モダリティの特徴を細かく分類していくことで、低分子が担うべき役割が見えてくるはずだ。

バイオ医薬品の働きとカバーする疾患

と、その前に一般教養としてバイオ医薬品の働きとカバーする疾患を見ていく。この章の目的は単に基本知識を収集する事で、低分子 vsバイオ医薬という視点は出てこない。知っている人は読み飛ばして頂けたらと思う。

まず、バイオ医薬品の機能は大きく分けて2つある。厚生労働省主催の市民公開講座「バイオ医薬品・バイオシミラーって何?」のスライドが素晴らしく分かり易いので引用させて頂く。

バイオ医薬品の働きは大雑把にいうと主に下記の2点だ。

厚生労働省主催の市民公開講座「バイオ医薬品・バイオシミラーって何?」より図は引用しました。

足りないタンパクを補う

例えば、糖尿病では膵臓の力が弱まり血中のインスリン濃度が下がる。インスリン(バイオ医薬品)を補充し治療する。

また、腎臓が弱まり、赤血球を増やすのに重要なホルモン、エリスロポエチンが減少し、貧血となる。そこでエリスロポエチン(バイオ医薬品)を補充する。

上記二つは血漿中へのホルモン補充だが、近年では細胞内に酵素を補充する例も報告されている。例えば、遺伝性疾患であるライソゾーム病では、ライソゾーム内の酸性分解酵素が遺伝的に欠損していることが原因で生じる。この機能欠損した酵素を点滴で補充し、細胞内へ到達させる酵素補充療法が知られている。

病気の原因を抑える

病気の原因を抑えるのは、従来の低分子創薬も同様だ。ただ、低分子に比べて抗体は標的に対する特異性が高い。故に、効率が良くオフターゲット由来の副作用が少ない。故に、低分子では制御できなかった分子を制御できるようになっている。

バイオ医薬品の中でも最も存在感が強い抗体医薬品が得意とする領域だ。

抗体医薬品の適応疾患の動向

じゃあ抗体医薬品はどんな疾患を対象としているの?ってのを見ていく。

株式会社BBブリッジが2019年1月に報告した調査結果によると、抗体医薬品の開発対象疾患は【がん、自己免疫・炎症性疾患】が主で全体の約7~8割を占める。続いて神経疾患が1割に満たないほどだ。

なお、上市品ではガン領域の割合は43%だったが、開発中の抗体ではガン領域が58%まで増加している。抗体医薬はガン領域にフォーカスしている様だ。一方で、自己免疫・炎症性疾患は、上市品では27%だったが、開発中の抗体では18%まで割合が下がっている。

株式会社BBブリッジ「抗体医薬品開発・市場の最新動向について、調査結果を発表」より図は引用しました。

抗体医薬品がガン領域にフォーカスしているという傾向は、出願特許の動向をみても同様だ。平成26年度の特許庁の調査結果を基に、政策研が抗体医薬品の適応疾患別出願件数の時間推移を示している。がんを適応疾患とした特許がうなぎ上りに増えており、感染症、自己面積疾患を適応とした特許の割合は近年減少傾向だ。

政策研 バイオ医薬品(抗体医薬品)の研究開発動向調査より図は引用しました。

ガン領域が伸びている背景には、がん免疫療法への期待が大きいからだと推察される。がん免疫療法に関しては平成31年度に特許庁から特許調査報告書が出されている。話がどんどんずれていくのでここでは紹介しないが、結論だけ言うと、めちゃくちゃ勢いがある分野の一つだという事だ。

がん免疫療法で使用されるモダリティは抗体だけではなく低分子もあるし、他にもいろいろある。がん免疫療法の開発パイプラインについて、概要を知りたい方は2019年にNature Review Drug Discoveryに報告されたこちらの論文が参考になるかもしれない。がん免疫療法のパイプラインを解析した論文だ。おまけとして私が本論文を要約したツイートも貼って置こう。モダリティごとの解析は無いので本記事の内容とは関係ないけど。

という訳で、一般教養としてバイオ医薬品の働きを確認し、バイオ医薬品の中でも存在感を放つ抗体医薬品がフォーカスする疾患領域を確認した。

さて、次章よりいよいよ低分子とバイオ医薬品を比較していく。まずは創薬において最も重要な臨床試験の成功確率という切り口で比較してみる。

バイオ医薬品 vs 低分子:臨床の成功確率比較

これは私見だが、創薬研究で最も重要なのは臨床試験、特にPII試験の成功確率を上げる事だと考えている。新薬の成功確率は一般的に3万分の1と言われる。何故ここまで成功確率が低いのか?この問いに対して簡単に答えが出たら苦労はしないのだが、最も大きな要因のひとつとしてヒトでの有効性を出すのが難しいからだと考えている。(勿論他にも要因は腐るほどあるが)

という訳で、バイオ医薬品と低分子試薬品の臨床の成功確率を比較してみる。参考にするのはBIO (Biotechnology Innovation Organization)の臨床確率分析だ。このレポートでは、2006-2015年に実施された1103社にわたる7455の開発プログラムを解析した結果である。

下記の切り口で臨床成功確率を各ステージごとに解析しており非常に有益だ。

  • 各臨床ステージごとの成功確率
  • 疾患ごとの成功確率
  • 希少疾患と慢性疾患の成功確率比較
  • バイオマーカーがある/なしでの成功確率
  • モダリティ間の成功確率

本レポートの中で各モダリティごとの成功確率が比較されている。用語の意味は下記の通り。

  • NME (New Molecular Entity:新規分子化合物、N=5858)
  • Biologic(バイオ医薬品、N=2277)
  • non-NME (効能追加・用量用法変更・剤形追加・併用など、N=1524)
BIO 「Clinical Development Success Rates 2006-2015」より図は引用しました

なおNMEはほとんどが低分子だが、一部ペプチドなども含む。低分子NMEと全てのNMEの成功確率を比較したところほとんど違いは無かったとの事。

極めて興味深い事に、全てのステージゲートに於いてBiologicはNMEよりも成功確率が高い。全体としてPIから承認までで1.8倍高い。

Trends in clinical success rates and therapeutic focusという論文 (2019)でも類似の解析がなされ、同様の傾向が見られている。全体として低分子よりもBiologicsの方が臨床の成功確率は約二倍高い。二倍も成功確率が向上するというのは結構すごい事だ。

では、なぜBiologicsが成功確率が高いのか?わからん。この問いに対しては恐らく明確な答えはない。

あくまで仮説という前提で、いくつか考えられる可能性を列挙しておこう。あくまで仮説だ。ちなみにTwitter上でこの問いに関して議論を行った。議論に参加し気づきを与えて下さった方には感謝である。

仮説①:抗体医薬は低分子医薬よりも動態、安全性が優れている可能性

抗体に話を限ると、適切な安定性評価で選択された抗体は低分子よりも体内での安定性は高い事が多い。また、抗体は標的に対する特異性が高い為”オフターゲット由来の毒性”が低分子に比べ少ない可能性がある。

また、基本的に低分子は、全身の細胞に広く浸透していくが、抗体は細胞の中に入っていかない。細胞の中には色んなタンパク質が存在する為、色々なオフターゲットと相互作用する可能性が高くなる。低分子はそれだけunknownな副作用が出てしまう可能背が高いのかもしれない。

AstraZenecaが2005年から2010年の自社品・業界全体の各臨床段階の成功確率と失敗要因を解析した論文によると、臨床前期における主な失敗要因は【毒性】だ。そもそもPI試験が毒性を見る為の試験なので、ある意味当たり前の結果だが、安全性の高いモダリテイで臨床入りしたならば、臨床前期(Preclinial~PI)の成功確率を上げれるかもしれないという事だ。

ちなみに、変な誤解を与えたくないので補足するが、低分子が常に毒性が高いという訳ではない。上手に設計された低分子は高い安全性を示す。臨床の毒性データをフィードバックし、どの様な分子を設計すれば毒性を軽減できるかを示した優れた論文も多く報告されている。

また、抗体医薬でもオンターゲット由来の毒性(過剰なサイトカイン放出とか)などや、免疫原性に起因する毒性が起こることがある。

免疫原性とは抗体医薬が体に異物だと認識され、免疫反応を引き起こしてしまうことに起因する毒性。

仮説②:抗体医薬の標的は良く知られたものが多い

Biologicsは低分子医薬品に比べ、臨床後期でも成功確率が高かった。これを説明できそうな仮説は立つだろうか?

臨床試験の各ステージで最も成功確率が低いのはPII試験であり、そのPII試験の主な失敗要因は【有効性】だ。つまり、創薬で最も難しいのはヒトで有効性を出す事だといっても過言ではないだろう。

では有効性を出すにはどうすれば良いのか?先のAstraZenecaの論文では臨床試験を成功させるために(正確には悪い失敗を無くす為に)5つのFrameworkを提唱している。

  1. Right target:標的が妥当である
  2. Right patient:患者層が妥当である。例えば同じがん種の患者さんの間でも遺伝子変異はバラバラだったりする。薬剤が効きやすい患者さんを適切なマーカーなどで選択できる。
  3. Right Tissue:作用部位にちゃんと薬剤が届く。例えば脳で効く薬剤がBBBを通過できなければ話にならない。
  4. Right Safety:安全である。
  5. Right Commercial potential:元取れなきゃ会社はやっていけない。

このうち、有効性に関係しそうなものに黄色線を引いた。抗体医薬品がこの3点に対してどうなん?ってのを見ていけば、何か見えてくるかもしれない。

抗体が狙う標的はRight Target/Right patient/Right Tissueなのか?

先に結論から言おう。承認された抗体医薬品が狙う標的はある程度良く研究されている標的である可能性が高い。2016年の政策研のレポートの「抗体標的分子の広がり」部分を一部引用させて頂く。

承認された抗体医薬品47品目の標的分子は31種類であり、内訳は、CD分子が15品目、増殖因子が8品目、サイトカインが9品目であり、これら3分類で全体の65%となり大部分を占めています。また、CD20に5品目、TNFαには4品目と集中しており、増殖因子も3種類のみと、各分類において、標的分子のバラエティーは少ない状況です。

政策研 「バイオ医薬品(抗体医薬品)の研究開発動向調査」より引用

因みに、2016年時点で開発中の医薬品488品の標的分子は232種と大幅にバラエティが増加した。まぁ新しいモダリティだし、最初は堅実な標的で行こうというのは極めてまっとうな経営判断だと思うので、この調査結果は非常にわかりみが深い。

政策研のレポートでは、2016年時点で開発中の標的分子(232種)がいつ頃報告されたのか?まで解析しており非常に興味深い。その解析によると、多くの分子標的は2000年以前に報告された分子であることが解る。一般的に、通常であれば、いわゆる古い分子標的は良く理解されている可能性が高い。

従って、現在承認済み、もしくは2016年時点で開発段階にあった抗体医薬品が標的としている分子種は、良く理解された標的である可能性が高い。つまりRight Targetである可能性が高い。

これは、Right Patientにも繋がる。つまり、疾患とのかかわりが良く研究されている標的というのは、患者層選択に重要な適切なPDマーカーやバイオマーカーが設定されている可能性が高い。

次に、Right tissueの観点から考える。抗体は基本的に【細胞内を狙えない】ので、細胞外/細胞膜上の標的を狙う。従って、比較的狙い通りになる可能性が高い。

一方で、低分子は細胞内や入り組んだ組織の深部とか脳とか、体のあらゆる部分を【狙える】ので狙う。その結果、失敗する事もある。

つまり、抗体は出来ないことがある程度はっきりしているという理由から結果として【Right Tissue】を達成している可能性があるのではないか?

あくまで個人的な仮説であった。

軽く纏めると、抗体医薬品は低分子医薬品に比べて【Right Target/Right Patient/Right Tissue】を満たしている可能性が高い。従って、臨床後期の成功確率が高いのかもしれない。

因みに、2000年以降に新規標的が出てないので「抗体医薬はもうお先真っ暗かも?」という記事などをみた。そうなんかな?と思って新規標的に対する特許を確認してみた。平成26年度の特許庁の調査内容を見ると、新規な抗体分子に関する特許(一番上のオレンジ丸)は2000年以降増えている。従って、創薬標的が枯渇しているという事実はなさそうだ。恐らく、開発に入るまでのタイムラグがあるのだろう。

平成26年度 特許出願技術動向調査報告書 抗体医薬 より図は引用

バイオ医薬品 vs 低分子:できる事と出来ない事

ここまでを簡単に纏めると、以下の様になる。

バイオ医薬品(特に抗体医薬品)は市場は急激に伸びており、承認数、開発パイプラインもゆっくりと増加している。(ここから仮説)抗体医薬は、良く理解された標的を狙い、モダリティの制約の中で適切な開発を行い、臨床試験では良好な成功確率を収めている。そして、上市品は世界に大きな医療インパクトを与えている。

つまり【出来る事をちゃんとやってるから】しっかり評価されてるのではないだろうか?ここまで既にいくつか出てきたが、抗体医薬や各モダリティにはできない事もある。順番に説明していく。

狙える疾患(タンパク質レベルで)※私見を含む

非常に大雑把に見ると、生体内の何かしらの分子(タンパク質など)が機能を失うか、過剰になった時に病気になる(非常に大ざっぱだ)。

薬は基本的に【失った機能を取り戻す】かもしくは【過剰な機能を止める】ことで病気を治す。この観点で各モダリティが出来る事を纏めると下記のような感じになるのではないか。

例えば、遺伝子変異で酵素が活性を失っていたり、不安定化していたり、もしくは欠損していたりする。その場合、変異しているタンパクに結合し安定化する低分子は失った機能を取り戻す(シャペロン分子など)。また、タンパク補充療法や、遺伝子治療では、機能を失ったタンパク自体を補充する。

一方で、分子の失った機能を抗体を取り戻す抗体というのは知られていないのではないか?私は聞いたことは無い。タンパクを安定化するタンパクは知られているが(HSPとか)、タンパクを安定化する抗体はあるのだろうか?もし、知っている人がいれば是非教えて頂きたい。

因みに、がん免疫療法は免疫細胞の失った機能を抗体医薬が活性化する。だがこれは、シグナルを活性化している訳であり、分子レベルで失活したタンパク質を活性化してるわけではない。免疫細胞上の各種分子は正常だが、がん細胞がブレーキシステムをハイジャックし、システム全体が破綻している。それを正常化するのががん免疫療法の抗体だと考えられる。

一方で、過剰な機能を止めるのは、低分子(阻害剤)、抗体、核酸が出来る事だ。これはイメージしやすい。

という訳で、その疾患がどの様な分子レベルで起こっているかまで落とし込めば、例えば抗体医薬品が全ての疾患を治せるという事はないことがイメージできる。

また、標的分子の種類、作用部位、投与方法に注目するともっと違いが見えてくる。纏めると下記の様になる。

こうやって眺めると、低分子というのは結構なマルチプレーヤーである事がわかる。ジェネラリストという感じだ。一方で、バイオ医薬品はスペシャリストっぽい。特化している。従って、応用範囲は狭いが適切に用いてやれば、世の中に強い医療インパクトを与える事が出来る。

いくつか補足する。

  • 最近ではRNAやDNAのが立体構造をとり、低分子が結合するポケットを持つことが知られている。また、そうしたDNAやRNAの高次構造の制御ががんなどの疾患の治療に役立つ可能性が示唆され出している。「DNA binding small molecule」などで検索すると色々情報が出てくる。(まだ発達初期の分野なので、ちょっと〇をつけたのは甘い気がする…)
  • ライソゾーム病の治療に使われるタンパク補充療法では、細胞内に酵素を補充する。
  • 抗体を細胞内に入れよう!という取り組みはなされている。だが、まだ実績は無いので、ここは〇をつけていない。(謎の厳しさ)

まだまだ製造方法や薬価などを纏めると、更なる違いが見えてくるがここでは割愛する。

以上、簡単に纏めると、各モダリティは全然違う。制御できる分子状態、標的、作用点、投与方法が違う。従って、各モダリティが競い合うというよりかは、適材適所で各々力を発揮する状態が良いのではないか?

その結果として低分子創薬の割合が減る事は十分に考えられる。

見えてくること

という訳で、各モダリティには特徴があり、それをテーマに応じて適切に選べたら良いよね、という結論になりそうである。

また、1つの標的に対して1モダリティが良いのか?という点も疑わなければならない。同じ標的に作用する分子でも、モダリティによって有効性が異なるという事は十分に考えられるからだ。

例えば、ちょっと前に抗HER2抗体と低分子HER2阻害剤を併用したら、抗体単独よりも乳がんに効いた!という報告があった。以下のツイートを参照されたい。

これはそこまで不思議な事とは思わない。抗体が結合するのは膜外ドメインで、二量化を阻害する事でHER2の活性を抑制する。一方で低分子は細胞内の酵素活性を有するキナーゼドメインに結合することで阻害をする。アウトプットが異なる可能性はある。

さらにがんの場合、耐性の問題も絡んでくる。抗体に対し耐性が出現した場合、低分子が効くし、低分子に対して耐性が出現した場合、抗体が効く。両方に耐性が生じた場合は?核酸医薬の出番かもしれない。

こうしたことを考えていくと、実はこういう事が言えるのではないか?

創薬研究者の目的は,、薬剤を用い、病気の苦痛を減らす事だ。患者さんの幸せの総和を増やす事だ。人体は複雑で、1つの武器では戦えない場合がある。しかし、科学の進歩で私たちは今様々な武器を持っている。選択肢が増えたことで、増える幸せは確実にあるだろう。

従って、低分子 vs Biologicsという狭い視点で物事をとらえるのではなく、疾患 vs 人類【各種モダリティ】という構図の方が正しいだろう。可能性が増えたという事だ。

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