新薬開発の成功確率は3万分の1ではない【実際の成功確率は?】

レビュー

こんにちは、製薬企業で研究を行っている科学者パライです。

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本日のテーマは【新薬の成功確率】だ!

新薬の成功確率は3万分の1…という話をよく聞く。めちゃ難しいという事だ。

私は、製薬企業で新薬開発の初期に携わっているので、その難しさは日々肌で感じている。同じ部署で世に薬を出した人はほんの数える程度しかいない。

新薬開発はめちゃ難しい。なので、3万分の1と言われてこれまで疑う事は無かった。

だが、ふと3万分の1って数値の根拠はなんや?と疑問を持ち調べてみる事にした。

先に結論から言うと、集計の仕方によっては確かに3万分の1となる。が、この集計の仕方は現実を反映していない様に感じる。

後で説明するが、私の計算によると、実際の新薬の成功確率は大体25分の1程度だ。

アミロイドβ部長
読者の気持ちを代弁する人

は!?ふざけんな!?そんな訳ないやろ!?

科学者パライ
科学者パライ

まぁ…そういうリアクションになりますよね。ごめんね。

まぁまぁ。どうか怒らないで欲しい。悪意はないのだ。可愛い子猫の画像を貼って置く。どうか癒されて欲しい。僕はあなたに癒されて欲しい。心から。

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ほっほ~ん!若造がなんか言っとるわ!くらいの寛大な気持ちで読んだ頂ければ幸いである…

という訳で目次。

新薬の成功確率に関する一般情報

まずは世間一般の情報を集めていく。Google先生のお力を借りる。

「新薬 成功確率」と検索をかけてみる。

検索結果の上位3つのHPが示している成功確率は以下の通り。

という訳で、やや数値に前後はあるが、3万分の1!という説明は根拠がないわけでは無さそうだ。そもそも薬剤の規制を行う「厚生労働省」が言っているのだからこれは確かな数値だ。

私もこの数値が間違っているとは言わない。ただ、問題は算出方法だ。

現在の計算方法

厚生労働省の算出方法を見てみる。

同定された複数標的に対して、計70万化合物がスクリーニングされた。そしてその内、最終的に薬剤となったのは28化合物だけだった。従って割り算して、1/25121という数値が出てくる。化合物数をベースとして算出している。

厚生労働省「臨床研究に関する現状と最近の動向について」より図は引用

製薬協の計算方法も同様だ。製薬協は1999年から5年間、18社を対象に、新薬候補としてスクリーニングされた46万のうち何化合物が新薬になったか?を調べた。結果として、新薬として承認されたのは僅かに36件だった。割り算すると、12888分の1という数値が出てくる。ここでもやはり、化合物数をベースとして成功確率が算出されている。

実際に創薬に携わっている人は、既に違和感を感じているかもしれない。この算出方法はなんか微妙だ(ごめんなさい)。

微妙だと思う理由を順を追って説明していく。にゃお~。

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現在の計算方法が微妙だと思う理由

最初からいきなり物議をかもしそうな事を言ってしまおう。

新薬開発で最も重要なのは創薬標的だと思う。

新薬開発の手順を非常にざっくり説明する(非常にざっくりだ)

  1. まず「この疾患にこの標的が関わってるかも」という仮説を立てる。
  2. 次に、その標的を制御する化合物を作る。
  3. 次に、動物実験で作った化合物が有効性を示すことを確認する。同時に毒性・動態などもプロファイルする。
  4. 最後に、ヒトの患者さんで毒性・動態・有効性を確認する。

つまり新薬開発は、10年かけて最初の仮説を確認する作業だ。仮説の根幹をなすのは、創薬標的だ。

従って、真の成功確率は、立てた仮説(創薬標的)の数に対し、いくつの仮説が臨床で真だと検証されたか?を計算した数値になるのではなかと思う。

簡単に言うと総テーマ数と承認されたテーマ数で計算したほうが良いと感じる。

大抵の場合、1つのテーマは1つの創薬標的に結びついている。何個のテーマが立案され、その内何個が承認までいったか?これが新薬開発の成功確率ではないだろうか?

更に物議をかもしそうな事をいってしまおう。

化合物の数を見てもあんまり意味はないと思う

従来の計算方法では、最初のHTSにかける化合物数が分母になるので、その数に成功確率が大きく左右される。

HTSにどれだけの化合物をかけるかは、企業文化によっても(多分)変わるし、テーマによっても変わる。

例えば、標的がキナーゼである場合、キナーゼ阻害剤の構造は大体似ているため、キナーゼ阻害剤っぽい化合物だけをHTSしてもヒットはとれるだろう。この時、臨床の成功確率は見かけ上、向上する。

だが、本当に成功確率は上がったのか?

また、企業文化によってHTS全部やっちゃえ!という企業もあれば、スマートに絞り込んでやるぜ!という企業もあると推測する。たぶん。

今の計算方法だと、HTSにかける化合物数を絞り込み、同等のヒット取得率を維持できれば、新薬の成功確率を大幅に上げれるという事になる。

そしてそれはきっと可能だ。

何故ならば、標的に対してヒット化合物をとる作業は、創薬全体で見ると非常に成功確率が高く、簡略化のハードルはそこまで高くない様に思えるからだ。新規標的に対し、ヒットが取得できる確率は80%との報告がある。

更に、最近では結晶化技術やバーチャルスクリーニングなども発達してきて、HTSのスリム化はますます可能だ。

では、例えばHTSのスリム化に成功し、数値上では成功確率が上がったとしよう。これは本当に成功確率が上がったといえるのか?

これはちょっと言えないんじゃないかな?と私は思う。

恐らく、全体の成功確率をあげる為に最も効率的な方法は、最も成功確率が低い【ボトルネック】の成功確率を改善するという事だろう。

では、新薬開発のボトルネックは何処か?PII試験だ。成功確率はわずか3割程度だ。

では、PII試験で何が評価されるか?主に有効性だ。

有効性が出るか出ないかは「この疾患にこの標的が関わってるかも」という最初の仮説が正しいか否かに大きく依存ずる。

つまり、創薬標的の質が、創薬のボトルネックの成功確率を決めているといえる。

従って、やはり創薬標的の数で新薬の成功確率を議論した方が良いのではないだろうか?

更に言うと、通常の創薬テーマでは1標的に対し、例え良い化合物が100個見つかってきたとしても、臨床に挙げる化合物は1-2個に絞り込む。

同じ標的で同じ会社から10個も臨床に挙げるなど聞いたことがない。開発コストが高い為だ。従って、臨床にあがる化合物数は良い化合物の数というよりかは、創薬標的数によって制限される。

ケミストも全化合物を「これを薬にするんや!」という気持ちでは作っていない。情報を取る為の捨て駒の様な化合物も作るし、なんか手元に試薬あるからまぜちゃった、みたいな場合もある。パラレル合成の鬼!みたいな感じでなんか急にめちゃくちゃな数を作る人もいる。

なので、やはり化合物数を見ていてもあんまり意味はないと思う。わん。

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科学者パライが提唱する新・新薬の成功確率

という訳で、新しい新薬の成功確率の計算方法を提唱してみる。

既に説明した通り、化合物数ではなく創薬標的(≒テーマ数)で成功確率を計算したほうが良いと私は考えている。

その様な視点で情報収集していくと、良い論文を見つけた。

How to improve R&D productivity: the pharmaceutical industry’s grand challenge, Steven M. Paul et. al., Nature Reviews Drug Discovery 9, 203-214 (March 2010)

この論文では、製薬大手イーライリリーが13の製薬大企業のデータとイーライリリーの内部データを基に、新薬開発の各ステップごとの成功確率を算出されている

つまり、各テーマが次のステップに進む為の成功確率の平均値が出ている。欲しかったデータである。

R&D model yielding costs to successfully discover and develop a single new molecular entity.より図は引用しました

この論文の目的は新薬開発の生産性を上げる為の考察なので、コストとかも乗っているが、一番上の数値p(TS)という部分が、次のテーマがステップに進む為の成功確率だ。

という訳で、この数値をかけ合わせていけば、創薬標的に着目した新薬の成功確率が出てくるはずである。

計算結果は4.1%であった。つまり大体25分の1だ。

確立だけで話をすると、25個の新薬テーマがあれば1つは成功する。勿論そこには途方もない時間とお金はかかる。だが、夢と希望はありそうだ。3万分の1と言われるとなんだか夢も希望もないみたいだから。

***

という訳で、常識を疑い、物事を因数分解し、自分で考えてみると案外見えていなかったことが見えてきたりするものだ。これから希望をもって仕事が出来そうです。

この記事で説明した事は全て私の個人的な私見だ。もし不快に感じた方がいたら非常にごめんなさい。

しかし、厚生労働省の方々の解析にケチをつけたみたいでちょっと怖い…そんなつもりは全くない。こんな考え方もありますよってライトな感じで書いている。令和のライト兄弟とは私の事だ。しかし、書き過ぎたかも…消されないだろうか…おっと、誰かがきたようだ…!!!!

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